「朴槿恵」大統領に「90%の満足」を与えた「世界遺産」日本の失態
バカ正直、バカ丁寧。何事も度が過ぎるのはよろしくない。とりわけ、国のメンツがかかり、互いに引くに引けない外交の場では、誠実さが必ずしも功を奏しないことは常識であろう。相手が「あの国」であれば、なおさらだ……。明治産業革命遺産の世界文化遺産登録を巡り、土壇場で激しい鍔迫(つばぜ)り合いを演じた日韓両国。この混乱をもたらした一つの要因は、日本の外務省の失態にあった。
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「韓国のスマイル0円外交にやられた」
世界文化遺産登録に“影”が差し始めた7月初旬、ある官邸スタッフはこう吐き捨てていた――。
当初の予定より1日遅れた同月5日、日本の明治時代の経済的躍進を支えた炭鉱等の世界文化遺産登録がなされ、何とか事なきを得た。だが、すんなりと登録されるはずだったのに直前まで続いたゴタゴタを振り返ると、韓国に「攻め込まれた」との印象が拭えない。
「外務省の脇が甘すぎた」
こう苦虫を噛み潰すのは、ある官邸関係者だ。
「6月21日、日韓の外相が笑顔で握手し、世界文化遺産登録に『協力』することで一致したはずでした。しかし、岸田文雄外相が『両国が協力することで完全に一致した』と胸を張ったのに対し、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相は『円満に解決しようという共通認識を持って、緊密に協力することにした』と述べるに留まり、実は両国の間には微妙な認識の差があったんです」
■韓国の「勝利宣言」
というのも、外相会談と前後して、外務省の事務方と、韓国政府サイドの折衝が行われたのだが、
「日本は、世界文化遺産登録を決めるユネスコの世界遺産委員会の場では、こう説明するつもりだと紙にして渡した。一方、韓国側は『大丈夫です。安心してください』といった姿勢を貫いた。つまり韓国は、日本に言質を与えなかったんです。しかし、バカ正直でお人好しの外務省は、韓国を信用して外相会談に臨んでしまった」(同)
韓国側にしてみれば、外相会談で笑ってみせることなど1円も掛からないのだから安いもので、日本を上手く嵌(は)めてやったというわけである。事実、
「韓国は、明治産業革命遺産の一部で労働に従事した朝鮮半島出身者は『強制労働』させられたと主張するつもりである――との情報を、6月末に官邸が察知。慌てた官邸は、10年来、世界文化遺産登録の根回しに奔走し、7月2日に内閣官房参与に任命された加藤康子(こうこ)さん(「産業遺産国民会議」専務理事)を中心に、世界遺産委員会が行われていたドイツのボンで、再度、関係各国に根回しをしてもらったんです」(同)
その加藤氏が証言する。
「韓国ロビーは確かに強力で戦略的でした。韓国ロビーのプロパガンダにドイツと一部の委員国が翻弄され苦戦を強いられたことは事実です。登録は長年の夢だったので、大変うれしかったのですが、正直申し上げて口惜しい。戦時徴用の問題も含め、韓国の世界遺産の政治利用を許したことは残念です。登録後も韓国のプロパガンダに負けないように、しっかり日本の歴史を発信していきたい」
実際、現地関係者曰く、
「韓国側は、明治産業革命遺産はアウシュビッツと似たようなものだとアピールし、各国の代表団が泊まっているホテルで、『目を覚ませ! ユネスコ』と記したチラシを配布していました」
結局、日本は炭鉱等で『forced to work』、つまり『労働を強いられた』人もいたと説明。岸田外相は、
「強制労働を意味するものではない」
と弁明したが、韓国メディアには、
〈韓国の全方位外交戦実る〉(7月6日付『韓国日報』)
〈このような前向きな結果が出たのは、韓国の外交的努力による国際社会の圧力のおかげだった〉(同日付『国民日報』)
などと「勝利宣言」の文字が躍った。結果的に韓国の“ゴネ得”の印象が植え付けられ、岸田外相の言葉は虚しく響いたのだった。
「コリア・レポート」の辺真一編集長が、今回の「遺産外交」を総括する。
「国際会議という公の場で、『強制労働』と受け止め可能な言葉を日本から引き出すことに韓国は成功した。『日本政府による強制労働』とまでは認めさせられなかったものの、90%は満足していると言えるでしょう。朴槿恵政権の支持率も、これで持ち直すと思います」
日韓の狭間のドタバタ劇で「バカを見た」のがどちらかは、言うまでもなさそうだ。