資本主義を終焉に至らしめる病/『「衝動」に支配される世界 我慢しない消費者が社会を食いつくす』

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 何かが食べたくなれば、コンビニやファストフード店ですぐに食べ物が手に入る。旅行に行きたければ、長い船旅をするまでもなく飛行機であっという間だ。今欲しいと思う「衝動」がすぐに実現できる便利で自由な時代になった。

 個人だけではなく企業も衝動をすぐに実現したがる。株価を上げたいと思えば、従業員の教育や設備に投資せず、自社株買いに巨費を投じる。すぐに利益を上げるためには、リストラや海外移転でコストカットすればいい。しかし、その結果、失業率はますます高まり、賃金はどんどん安くなった。格差は広がる一方だ。

 ピケティ本のブームで、経済学者たちはいっせいに格差論や資本主義の矛盾を指摘し始めているが、難解でピンとこない。そんな不満を吹っ飛ばしてくれるのが本書だ。これまでも圧倒的な取材力で「食」や「エネルギー」の終焉を指摘してきたジャーナリストである著者は本書で、経済学者とは異なる目線から、行き過ぎた市場資本主義がはびこる現在の米国の病んだ姿を描き出している。

 行き過ぎた市場資本主義が求めるのは効率である。だから、すぐに利益が得られることを優先し、将来得られるかもしれないもっと大きな利益は切り捨てられる。その結果、製造業は衰退し、金融業ばかりがはびこる。消費者が欲しがっている商品は世に溢れる一方、「本当に必要なもの」は後回しになる。

 医療の世界もそれは同じだ。長期的に見れば病気を予防することが医療費の削減につながるのだが、すぐに利益を上げたい病院は高価な治療を優先する。これらを是正すべき政治の世界も目先の利益を重視し、本当に必要な政策を後回しにしている。もう誰も、市場が突き進む破滅への道を止められなくなってしまった。

 読み進めていると、これが米国社会の病だということを忘れてしまう。もちろん言うまでもなく、これは日本の問題でもある。

[評者]鈴木裕也(ライター)

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