2050年までに種の半分は絶滅?/『6度目の大絶滅』

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 タイトルに「6度目の」とあるのは、先行する「5度の大絶滅」を踏まえた表現であるのはもちろんだ。四億四千四百万年前の古生代・オルドビス紀末。同じく古生代・デボン紀後期。史上最大規模の絶滅とされる二億五千万年前のペルム紀末。中生代に入って三畳紀後期。ついでアンモナイトや恐竜、首長竜、海竜、翼竜などの巨大爬虫類が絶滅した六千六百万年前の白亜紀末の大絶滅である。

 ビッグファイブと総称されるこれらは、今も化石や岩石層の中に鮮やかに痕跡を見ることができる。とりわけ最後のものは、中米ユカタン半島に落下した隕石が原因とされ、それを機に時代は哺乳類の卓越する新生代へと移行するのだが、生命史は単に地球域内のできごとではなく、大宇宙のリズムに直結していることを感動的にもわれわれに教えてくれた。なおウォルター・アルヴァレズによる隕石説の着想(一九七〇年代末)と、それが世界的に受容されるまでの経緯は本書第4章「古代海洋の覇者」に詳しい。

 さて「6度目の大絶滅」とは何か。実は現在進行中の大絶滅。原因は隕石ではなくわれわれ自身だという。約二十万年前のアフリカに出現し、瞬く間に世界中に拡散、席巻したホモ・サピエンスにほかならない。ここで注意せねばならぬのは、われわれに他種を絶滅させる自覚はなくとも、拡散の速さと徹底ぶりがそのまま競合他者の衰退と絶滅とを暗示している点だ。たとえ彼らの受けるストレスはわずかでも、何万年という地質学的スケールで積算されれば、大絶滅も現実的なものとなる。従来「完新世」と呼ばれた最終氷(河)期以降の一万千七百年間を、人間活動の極大化を示す「人新世」と改称し、温暖化・海洋汚染などの責任を明らかにするアイデアまで紹介される。

 著者は「ニューヨーカー」誌などに執筆する女性科学ジャーナリスト。さすがだと思うのは世界中に点在する「6度目の大絶滅」の現場(と思われる場所)に直接足を運び、リポートしている点だ。人間が移動を助けたツボカビ菌のせいで「黄金のカエル」が消えたパナマ。ダーウィンが進化論を発表する少し前、最後のオオウミガラスが殺されたアイスランド・エルデイ島。温暖化で樹林帯の樹木が高地移動しているアンデス(移動できない樹木は絶滅)……。

 そもそも「絶滅」という発想自体さほど古いものではないそうだ。フランス人博物学者キュヴィエがアメリカ大陸で発見された巨大脊椎動物の骨格を、絶滅種としてメガテリウム、マストドンなどと名付けた十八世紀末から十九世紀初頭以降のこと。他にもマンモス、カメロプス、スミロドン、モア……など氷期に人類に狩られて絶滅した大型獣・鳥は少なくない。ネアンデルタール人の滅亡も一連のものと見る向きもある由。

[評者]稲垣真澄(評論家)

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