ビジネスに英会話能力は必要ない!――知られざる「英語の害毒」
「グローバル化が進む中、ビジネスパーソンは英会話くらいできて当たり前」
こういう類の意見を耳にすることはよくあります。実際に、英語を社内公用語にする楽天のような企業も現れました。
でも、本当のところはどうなのでしょう。
もちろん、英語に限らず外国語ができるというのは価値のあるスキルでしょう。しかし、問題は「必要性」と「それを習得するためにかけるコスト(時間、費用)」が見合うかどうかのはずです。
この点について、言語学が専門の青山学院大学経営学部准教授・永井忠孝さんは、かなり独自の見解を示しています。永井さんは、ビジネスパーソンに限らず、子供から大人まで「英語くらいできなくては」と思い込んでいる風潮に警鐘を鳴らしたいと考え、『英語の害毒』という本を書きました。同書をもとに、この問題を考えてみましょう。
■企業は新人に「英語力」を求めていない
経済産業省は2010年に、企業の人事採用担当者が、自社で活躍している若手社員が共通して持っている能力要素を尋ねるという調査を行い、次のような結果になりました。
1位 コミュニケーション力(20.9%)
2位 人柄(20.2%)
3位 主体性(14.1%)
問題の「語学力」はといえば、何と15項目のうち下から3番目の0.6%にすぎなかったというのです。
この調査だけが独自というわけではありません。経済同友会の調査(2014年)では、採用面接時に重視する能力として、企業側が回答したのは、1位が「論理的思考力」、2位が「課題発見・解決力」。ここでも「語学力」は7項目中5~6位と下位に甘んじています。
■意外なほど仕事に必要はない
「就活時や若手時代はともかくとして、仕事をバリバリするようになったらやっぱり英語くらいできたほうがいいだろう」
そう思う方もいるかもしれません。
しかし、これもかなり怪しいようです。
言語学者の寺沢拓敬氏は、『「日本人と英語」の社会学』の中で、就労者を対象にしたアンケートの結果をまとめています。それによると、どの年代でも「英語をよく使う」としたのは全体の2~3%、「時々使う」人を含めても10~15%で、「過去1年間に少しでも使った」人まで広げても、一番多い年代で25%程度にすぎなかったそうです。
■「英会話が必要」は思い込み
興味深いのは、企業と学生との意識のギャップです。先ほどの経済産業省の調査によると、企業の人事採用担当者が学生に足りない要素として挙げたのは「主体性」や「コミュニケーション力」でした。ところが、学生に「自分に足りない要素」を聞いたところ、「語学力」がトップになったのです。
もちろん、仕事で英語が必要な人は一定数いることでしょう。また、そんなことと関係なく英語学習そのものが楽しいという人もいるのでしょう。そういう人は英語をどんどん学ぶべきです。
しかし、小学校から膨大な時間をかけてまで学ぶことにどのくらい意味があるのかは冷静に考えてもいいのかもしれません。
永井さんは、『英語の害悪』の中でこのように述べています。
「実際に仕事で英語が必要な人はごく少ししかいない。もちろん少しはいるわけだが、小学校から英語を始めて、日本人全員が英語ができるようにする必要があるほどではない。
社会に大工は一定数必要だが、義務教育で全員に大工になる訓練を施す必要はない。それと同じことだ」