3対0だった「集団的自衛権行使は違憲」説は学者の大勢か?

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 蟻の一穴天下の破れ――安倍総理の脳裏には、そんな諺がよぎったかも知れない。衆院憲法審査会に呼ばれた参考人が、3人揃って「集団的自衛権の行使は違憲」と断じたのである。そこで本誌は調べてみた。日本の憲法学界に自民党の味方はいないのか、と。

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「参考人の違憲発言は、まさに自民党のオウンゴール。憲法改正推進本部長の船田元(はじめ)さんは“予想を超えた”と弁解しているが、そんなレベルじゃない。今夏までに法案を可決できるのか分からなくなってきました」(自民党の中堅代議士)

 6月4日に行われた参考人質疑はそれほどダメージが大きかった。なにしろ、野党推薦の2人(小林節氏、笹田栄司氏)だけでなく、自民党推薦の長谷部恭男氏(早稲田大学大学院教授)までもが集団的自衛権の行使は許されないと発言したのだ。

「3対0」という大惨敗に、人選ミスとの批判も噴出したが、そもそも、我が国の憲法学者は3人のような違憲派ばかりなのだろうか。

 憲法学の世界ではいくつかの学術団体があるが、大抵の学者は次のどれかに所属しているという。

『全国憲法研究会』
『憲法学会』
『比較憲法学会』
『日本公法学会』

 ちなみに2つ以上の学会に登録している学者もおり、重複があることを踏まえて“勢力図”を描いてみる。

 まず、『全国憲法研究会』。ここは規約に「護憲」をうたっており、筋金入りの護憲派の牙城だ。代表の水島朝穂氏(早稲田大学教授)が言う。

「うちは会員が500人いますが、全員が“集団的自衛権の行使は違憲”という立場です。私個人の意見を言わせてもらえば自衛隊も違憲。ましてや集団的自衛権なんてもってのほか」

■保守系も「違憲」

 これに対して『憲法学会』は保守系の学術団体として知られている。

「当学会に登録している研究者は370人。独立国家としての憲法がどうあるべきかを研究する団体ですから、ほとんどは“集団的自衛権は行使されるべきだ”と考えている。しかし、現行憲法の下では、合憲と導くことは容易ではなく、憲法改正が必要です。会員も半分ぐらいが合憲、残りは違憲もやむなしと考えているでしょう」(理事長の慶野義雄・平成国際大学教授)

『比較憲法学会』も憲法改正を容認しており、保守性の強い学会だ。

 理事長の百地章氏(日大教授)によると、

「うちの学会は約200人。私自身は合憲の立場ですが、同じように合憲と見ている会員は半分ぐらいでしょうか」

 最後に『日本公法学会』はどうか。ここは、最も権威があるとされており、会員約1500人のうち約800人が憲法学者だ。理事長の小早川光郎氏(成蹊大学法科大学院客員教授)は、

「違憲か合憲かについてはお答えしかねる」

 と回答を避けるが、理事の1人が言う。

「違憲だと考えているのは500~600人。合憲は少数派で200~300人ですね」

 保守系の学会でも合憲派は半分。中立とされる学会だとさらに分が悪いのは明白だ。こんな「憲法ムラ」の事情を知らずに人選していたのだろうか。“電気ショック”が必要なのは、わが世の春に呆けていた安倍政権の面々である。

「特集 棺桶に片足を入れた『安保法制』は蘇生できるか?」より

週刊新潮 2015年6月18日号掲載

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