たった5mlの血液で7種類のがんリスクを判定する「アミノ酸濃度」
高くて痛くて面倒くさい。そんなイメージがすっかり定着しているためか、日本のがん検診の受診率は、欧米の8割に比べ、わずか2割にとどまっている。その惨状を変える起爆剤になるか――。たった5ミリリットルの血液採取で、7種類のがんリスクを判定できる検査がいま、広まりつつあるのだ。
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街角の献血だって400ミリリットルは血を抜かれるのに対し、5ミリリットルと言えば、台所の小さじ1杯の量。その程度に過ぎないから、保険適用外とはいっても、2万円ほどで検査は受けられるし、結果が出るまで1週間ほどしかかからない――。
現在、日本でこの「アミノ・インデックス・がんリスク・スクリーニング(AICS)」が880カ所ほどの施設で行われているのは、そんな“簡便さ”によるものだろう。
「私はもともと血圧が専門の内科医ですが……」
と言うのは、研究の第一人者、足利工業大学の山門實・看護学部長である。
「がんほど身体に異常を及ぼす病であれば、血液にも異常を起こしているはずと考えた。そこで10年程前から、がん患者の血液中のアミノ酸濃度に着目して分析を進めてみたのです」
がん細胞は自己増殖のエネルギー源としてアミノ酸を使う。それを利用しているのだ。
山門氏が続ける。
「まずは、胃がんの患者さん400人の血液を分析して共通するパターンを確立し、続いて健常者の血液も分析して、それと比較検討しました。その後、大腸がん、肺がんについても同じように進めていきました。すると、それぞれのがんについて、血中のアミノ酸の濃度や種類にはっきりとした特徴があることがわかったのです。それなら、ある人の血液を採り、こちらのデータと対照すれば、彼にがんのリスクがあるのか、あるとすれば、どのがんとアミノ酸のバランスが近いのかも判定できます」
■すい臓がんも判定
このデータとの“近さ”によって、研究班はがんのリスクをA~Cの3段階に分類した。胃がんの場合、ランクAなら、がんの可能性は普通の人の3分の1以下。しかし、Bなら1・6倍、Cなら10・2倍といった具合である。
「実は私自身がAICSによって助けられたんです」
と、山門氏。
「私は毎年必ず人間ドックを受けていましたが、便潜血検査はいつも陰性でした。ところが、試しにAICSを受けてみたら大腸がんがCランク。ビックリして内視鏡検査を受けたら、大きなポリープが見つかった。放置していたらがんになる一歩手前でした」
2011年に実用化に成功。現在、アミノ酸構成のスクリーニングが出来るのは、前出の3つに加え、前立腺がん、乳がん、子宮・卵巣がんの6種類だが、近々、前項のすい臓がんもそこに含まれるというから、期待は高まるというもの。
血液はウソをつきません――氏がそう胸を張るのも、何だか頷けるような気がするのである。