普通は即座に消す不倫メールに価値がある 不倫専門「弁護士事務所」の助言と警告

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 ダメと定められているからこそ、ぜひとも味わってみたくなる。やってはいけないと言われたら、余計に試したくなる。そんななか活況を呈するのが、“不倫専門”の弁護士事務所。いわば真っ当な別れさせ屋の登場とは世も末だが、傾聴だけはしておきたいその助言と警告。

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 歌人の俵万智は『チョコレート革命』で、妻子ある男と不倫の恋を抱えた女の心をこう詠んでいる。

〈議論せし二時間をキスでしめくくる卑怯者なり君も私も〉

 将来について言いようのないもどかしさを伝える女。それをキスで誤魔化す男。さらに、これを受け入れてしまう女。そうは言っても、この時は燠(おき)ほどのものだった女の不信感がじわじわと募っていく。夫婦問題コンサルタントの池内ひろ美氏によると、

「“日曜には会えない”とか“泊りは難しいから家に帰る”ことを繰り返すうち、不倫女性には嫉妬心が芽生え、本気になっていく。だから、“結婚する気はない”という彼女の言葉を絶対に信用してはいけません」

 そして前掲書には、孤独に耐えかねる女の姿が投影される。

〈抜け殻としてあるパジャマ抱き寄せてはかなき愛のかたちを崩す〉

 むろん世の中に1番になりたくない2番手など、いるわけがない。それを見透かすように、俵はこう続ける。

〈知られてはならぬ恋愛なれどまた少し知られてみたい恋愛〉

 やがて不倫相手は業を煮やし、「奥さんと別れてほしい。でないと関係を職場にばらす」と言い出す始末。狼狽する男は不倫相手に、「妻が別れてくれない」と漏らし、不倫の事実を知るところとなった妻には「相手が別れてくれない」とこぼす。にっちもさっちもいかぬ状況で、「3人で会おう」などと提案したが最後、絵に描いたような修羅場がやってくる――。

 そうなる前の駆け込み寺が、不倫問題解決のスペシャリストこと、東京・青山のフラクタル法律事務所である。

「婚約不履行など男女問題の相談で、年間300~400名がこちらを訪れます。受任するのはその半分ほどで、そのうち不倫絡みとなると、100件弱です」

 と言うのは、代表を務める田村勇人弁護士(38)。同じく代表の堀井亜生(あおい)弁護士(37)が後を受ける。

「そのなかで最も多いのが、不倫相手と別れたい既婚男性からの相談です。その次が、慰謝料を請求したいと相談してくる不倫された妻もしくは夫。そして3番目はこの裏返しで、不倫がばれて相手の配偶者から慰謝料を請求された男女です」

 費用に関して言うと、弁護士のアドバイスを受けたうえで、相手方と当事者が直接交渉するプランは月2万円より。その一方で、弁護士が介入する場合は、着手金が15万から。そして成功報酬が、〈15万円プラス経済的利益の16%から〉となる。この「経済的利益」とは慰謝料を取ったり、減額させた分を指す。

「慰謝料が請求できる根拠は民法709条にあります。他人の権利を侵害した時は、その損害を賠償しなければならない。そこへ行くと、不倫している当事者間では、法的に守られる権利はないので慰謝料を請求できる法的根拠はないのです」(同)

 つまり、単純に不倫相手と別れたい場合には、「経済的利益」が発生しないゆえに、費用は最低30万円からになるというわけだ。

 実際のところ、「不倫相手と別れたい既婚男性からの相談」の場合、弁護士が介入してすぐに解決することもあれば、数カ月かかることもある。ただ、裁判になることはごく稀。その意味で、悩める男女にとっては福音であり、守護神なのだ。

「内容証明を送って“不倫をやめなさい”だけでは問題は解決しません。忘れてはならないのは、不倫相手にも共感してあげること。敵ではあるけれど、女性にも救いの手を差し伸べるようなイメージです。それが穏便かつ円満な解決への近道です。そのためには事務所に不倫相手の女性に来てもらって話を聞くこともあります。普通の法律事務所では内容証明を送付するというのが通常の対応でしょうが、それだけでは良い解決には遠いと感じています」

 こう胸を張る田村弁護士。とまれかくまれ、“蜜の味”たる不倫の世界を覗いてみよう。

■“強姦”と虚偽の主張も

 堀井弁護士が解説する。

「不倫関係の多くは身近なところからスタートしています。最も多いのが、会社の同僚や上司・部下というケース。仕事での信頼関係がそのまま恋愛関係にもつながりやすいので、不倫に陥ることが多いのです」

 そこで取り上げるのが、警察官同士の職場不倫について。男性が既婚で女性は未婚、ともに不惑に手が届こうかという年齢である。

「初め、離婚は求めないと言って交際をしたのに、“奥さんと別れなければ上司にばらすと言われて困っている”という相談でした。警察は、内規で不倫が懲戒処分の対象になるということで、交際を解消出来ず悩まれていたのです」(同)

 事実、警察庁広報室は、

「各都道府県の本部に通達している懲戒処分の指針の1つに、“不適切な異性交際等の不健全な生活態度を取ること”とある。不倫関係はこれに当たります」

 と言うし、この通達を受ける側のさる県警幹部曰く、

「確かに、不倫=戒告処分。停職や減給など、目に見える処分はないものの、昇任試験にはしばらく通らない。とにかく一度そういうことを犯してしまったら、警察で生きていくのは辛いよ」

 再び、堀井弁護士の助言に話を戻す。

「女性警官には、こちらから連絡をして、上司などに暴露するのは、当人の社会的評価を下げる恐れがあるため名誉棄損に、暴露しようとしただけでも脅迫に、各々該当する可能性があると告げる。この時、不倫相手が女性に対してすでに恋愛感情をもっていない旨をはっきり伝えるのも肝要。“結婚できないのだから他の人を探しなさい”と、女性の目を覚まさせてあげるのです」

 さらに悪いことに、職場不倫にはまだまだリスクがある。その1つは、不倫相手の女性が「セクハラされた」と虚偽の主張を会社にすることだ。堀井氏が続ける。

「この場合、セクハラは妄言で、2人が恋愛関係にあったと男性側がうまく反論できないと、懲戒処分の対象となりかねない。そのなかで重要になるのが交際時のメール。具体的には、“好き”や“また会いたい”、“昨日はすごく楽しかった”などと書かれた、女性の方も積極的に交際を楽しんでいたと裏付けるようなもの。微笑ましいツーショット写真も効果的です」

 ただ障壁となるのは、妻にばれたくない一心から、おしなべて夫がメールを削除していることだ。

「家族や会社に知られては困るので、ご自身で保管出来ないケースも多く、メールの保管サービスもしております」(同)

 不倫の動かぬ証が、他方で自身を助ける手づるとなる皮肉――。

 それだけではない。

 悲劇的なことだが、セクハラのみならず強姦と強弁されることもある。参考となるのが、30代男性と20代の後輩女性との社内不倫の例だ。堀井氏が言葉を継ぐ。

「奥さんが旦那の携帯を見たことにより、交際が発覚しました。妻は不倫相手に対し、“夫と別れて慰謝料を支払うこと”を求めたところ、逆に“強姦された”と告げられたのです」

 夫を論難する妻。あまりに気まずい空気のなか、夫は渋々、歯の浮くような台詞が飛び交うメールや動画を差し出したのだった。

 殺伐とした、夫婦関係のどん底だが、これが奏功した。

「その証拠事実を突き付けても、不倫相手は強姦であると主張し続け、しまいには会社の上司に相談しました。夫は上司から事情聴取をされたため、弁護士に依頼。会社に対して弁護士から、交際時の円満なメールや動画があることを説明すると、強姦でないのを理解して大事には至りませんでした」(同)

 結果、後輩社員との間で、「今後は強姦について主張しない」という合意書を作成し、解決と相成ったのだ。

■安心して不倫の世界へ

 評論家の唐沢俊一氏は、選良が不倫に走って、街中で唇がふやけるほどキスした昨今の例に触れて、

「“メディアにバレたら大変だ”という罪悪感が、キスの快感を何倍にもする」

 と分析する。もっとも、不倫が永続せずにこじれて破局に向かうのは、男女の考え方の違いに負うところが大きい。例えば、家庭を持つ男性が不倫相手に優しい言葉をかけたとしよう。

「男性の真意は、“不倫という立場に追いやった彼女へのリップサービス”なのですが、女性はそのまま受け入れ、“私は好かれている”と捉える。また、女性が暴露や自殺をほのめかし、関係が続いていたとしても男女に考えの違いが生まれます。不倫関係を解消したいのだが、行動の激化が怖くて身動きがとれない男性に対して、“想ってくれているから関係が続いている”と考えるのが女性です」(田村弁護士)

「加えて言えば……」として、田村弁護士が不倫女性における“危険”なシグナルに言及する。

「基礎体温を測り出したり、教えていないのに子供の名や学校を知っていたり、会う約束もなしに最寄駅近辺でばったり出くわしたり……。そんな姿勢を見せ始めたら、別れを切り出すべく弁護士に相談した方がいいでしょう」

 先の唐沢氏が、こう総括する。

「不倫問題に精通した弁護士事務所の盛況ぶりは、不倫がこれまで以上に手近なものへ、一般化していることの証左。おまけに、“お金さえ出せば解決法がありますよ”となれば、不倫をためらう理由がなくなることでしょう」

 いわば明朗会計の“便利屋”の口添えを頼りに、ようこそ安心して不倫の世界へ――。

週刊新潮 2015年6月11日号掲載

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