完璧に胃がんを探し出せるのは「胃カメラ」か「バリウム」か

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 今井雅之の死の衝撃が覚めやらぬ翌5月29日、今度は漫才コンビ『今いくよ・くるよ』のいくよの訃報が巷に流れた。享年67。昨年9月、胃がんが見つかったが、すでに末期の状態だった。彼女もがん検診を受けたことがなかったという。胃がんも早期発見・治療で完治できるだけに、その死は惜しまれる。胃がん検査には「胃カメラ」と「バリウム検査」があるが、では病巣を完璧に探し出すには、どちらが有用なのか。

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「多少、検査に苦痛はあっても、胃カメラの方が直接、胃の内部を観察できるから、圧倒的に優れている」

 と断言するのはある内科医。消化器外科の医師も、

「バリウムによる上部消化管検査はもう必要ない。それで胃に異変が見てとれても、結局、胃カメラで再検査することになるから、無駄な二度手間になる」

 と同意見だ。しかし、先の秋津院長はこうした意見を真っ向から否定する。

「確かに胃カメラは胃壁表面の粘膜の状態は細かく把握できる。ポリープがあれば、組織を採取して、悪性か良性かの判断も行える。しかし胃全体の形や動きまでは分かりません。また人が見るものですから、熟練医師ですら、病変を見落とす可能性もある。食道と胃の接合部分の陰など死角になっている場所がありますから。それと比べて、バリウムのX線検査は、胃全体の形と動きが分かり、ポリープ型の腫瘍を見逃さない」

 そして後者の最大の利点について、こう述べるのだ。

「胃がんの中でも最も怖ろしいのは、進行の極めて早いスキルス性の胃がんです。これは胃の粘膜の下に広がり、病変が正常細胞に覆われていることが多いため、胃カメラでも発見が困難で、ほぼ見逃してしまう。その点、バリウム検査はスキルス胃がんの発見に向いている。なぜなら、X線撮影の際には患者さんに炭酸ガスを飲んでもらって胃を膨らませるのですが、スキルスに侵された胃は硬くなるので、膨らませることができないからです。この胃全体の異変によって、スキルス胃がんであることが分かる。ですから、2つの検査は両方とも必要。実際、遺伝を怖れ、熱心に胃がん検診を受けていたのに、それが毎回、胃カメラだったため、スキルス胃がんの発見が手遅れになった事例も出ている」

 この話で思い起こされるのが、1993年に逝去した、キャスターの逸見政孝さん(享年48)のケースだ。実弟が32歳の若さで胃がんで亡くなったため、彼は毎年欠かさず胃カメラ検査を行っていた。それでも逸見さんは病魔から逃れられなかった。スキルス性の胃がんに斃(たお)れたのである。

「バリウム検査も定期的に受けていれば、手遅れになる前に発見できた可能性があります。私は、胃カメラを年1回、バリウム検査を3年に1回、受診することを強く勧奨したい」(同)

肺がんにマルチスライス

 やはり早期発見・治療でほぼ完治する肺がんについても言及しておこう。

 現在、一般の健康診断では胸部X線撮影、すなわち肺のレントゲン検査が行われている。しかしより完璧さを望む人には、胸部CTをお勧めしたい。旧来のCTは放射線の被曝線量が高いリスクがあった。一度の撮影に30秒から1分も息を止めなければならず、患者の負担も大きい。また臓器を輪切りにする間隔が数センチと大きかったため、ミリ単位の小さな腫瘍を見落とす可能性が高かったという。

「そこで開発されたのが、現在、主流となっている『マルチスライスCT』です」

 と語るのは、東芝病院放射線科の小嶋馨部長だ。

「これは患者の体の周囲にらせん状に切れ目なくX線を照射し、複数の検出器でそのX線の情報を受けるもの。これまでより細かく輪切りにし、0・5ミリ間隔で詳細な画像を大量に撮影できるようになった。おかげでミリ単位のごく初期の小さながんも見つけられます。また膨大なデータにより、3D画像を構築することも可能です。肺のみなら5秒~7秒間、呼吸を止めるだけで撮影が終了します」

 放射線量も数分の1にまで低減されたという。

「しかもレントゲンの場合だと、心臓の裏に隠れて写らない部分や、平面画像ゆえに血管や気管、骨が重なり合って見えづらい部分もある。そうした死角も、マルチスライスCTは正確に捉える強みがある」

 保険適用外なので、1万円前後の費用がかかるが、それで健診では見落とす怖れのあるがんを見つけられるなら、安いものである。

「特集 健康診断では見落とす『超早期がん』発見の特別検査ガイド

週刊新潮 2015年6月11日号掲載

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