美形はどれだけ「お得」なのか/『美貌格差 生まれつき不平等の経済学』
「♪娘は器量が良いというだけで、幸せの半分を手にしている」と、かつてさだまさしが歌ったが、労働経済学の世界的権威が二〇年かけて解明した結論によると、これは真実だ。営業したり融資を受ける際にも有利なことが多いし、経営者になれば業績も上がり、選挙に立てば得票率も高い。おまけに就職や恋人探しでも有利になる。生涯年収に至っては、並み以上の容姿の人は並み以下の容姿の人より二三万ドル(約二七〇〇万円)多くなるという。
しかし、さだまさしにも間違いがあった。容姿が収入に与える影響が大きいのは女性より男性においてなのである。本書によると、容姿が平均より上の女性は下の女性の収入を一二%上回るだけだが、男性ではこの差が一七%に拡大するのだ。ならば、美しい容姿を得るために化粧や美容整形をするべきかというと、答えは「否」だ。本書によると、容姿を良くするための一ドルの投資に対する見返りはたった四セントにすぎないという。
本書は、長年にわたって人の容姿が経済面に与える影響について論文を書き続け、専門家として裁判で意見陳述し、政府機関に助言をしてきたテキサス大学の教授による「美貌の経済学」研究の集大成である。経済学とは本来「なぜ」を追求することより、事実を事実として受け止めていく傾向がある。しかし、彼の研究は経済学の枠を超え、社会心理学の研究成果まで取り入れ、「なぜ」を論理的に推測している。本書が堅苦しい経済書とはひと味違う面白い読み物となっている理由だろう。
本書の後半では、そんな美貌格差を是正するための「ブサイク保護法」を検討するが、その結論は決してブサイクに光明を与えるものではない。生物学的に見れば、クジャクの例を挙げるまでもなく、美しい個体は繁殖において有利なのはわかっているが、それを具体的数字や事例でヒトにおいて示されると、ブサイク側の人間として、読後の私には若干やるせない気持がある。