トッププロ参加トーナメントになる将棋電王戦に「羽生名人」参加でよいか
戦国時代の城攻めに喩えれば、内堀はすでに埋められ、残すは本丸のみという絶体絶命の窮地であろう。不測の事態に陥った将棋連盟は、ついに精鋭部隊の投入を強いられ、当代随一の棋士・羽生善治名人(44)までもが、決戦の舞台に駆り出されようとしている。
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“人類最速の男”と称されるウサイン・ボルトですらトップスピードは軽自動車に劣る。進歩した科学技術に比べれば、人間ひとりの才能や鍛錬など無力に等しい。だが、そんな常套句の前にひとつの問いが立ちはだかる。はたして、コンピューターは羽生名人に勝てるのか――。我々はまもなく、その答えを目の当たりにするかもしれない。
「実は、プロ棋士とコンピューターが対決する“電王戦”が来年も開催されることになったのです」
と明かすのはベテラン棋士である。この3~4月に『FINAL』と銘打った第4回大会が行われた電王戦だが、来年から新たな体制で再始動するという。
「しかも、これまでのような団体戦ではなく、トッププロ棋士も参加するトーナメント制が導入されます。そこで優勝した棋士が、コンピューター同士の戦いを勝ち抜いた最強ソフトと対局する。つまり、四冠を手にした“現役最強”の羽生名人が、コンピューターと真剣勝負する可能性が高まっているのです」(同)
思えば“電王戦”はプロ棋士にとっての鬼門だった。
第1回の電王戦で米長邦雄永世棋聖が苦杯を嘗めたのを皮切りに、
「5人の棋士と5つのソフトによる団体戦となった第2回以降も、コンピューター側の勝ち越しが続きました。今年は3対2の僅差でプロ棋士側が勝利したものの、最終戦で阿久津主税八段が、相手のプログラミング上の穴を突く“奇手”を指したことで話題になった。そこまでしなければ勝てないほど、コンピューターが進化しているというわけです」(観戦記者)
■最終決戦
となれば、“夢の対決”への期待は増すばかりだが、羽生名人が参戦するに至った背景には、棋界の苦しい台所事情も影を落としていた。先の棋士が続ける。
「羽生名人がコンピューター相手に後れを取れば、“もはや人間に勝ち目はない”と認めざるを得なくなってしまいます。それでも将棋連盟がトップ棋士も参加するトーナメント制に踏み切ったのは、電王戦を主催するドワンゴが、スポンサーを続ける条件として“羽生名人の出場”を突きつけたから。ここ数年、タイトル戦を主催する新聞社がスポンサー料を削減し続けるなか、新たな大口出資者の意向には将棋連盟も逆らえなかった」
その結果、矢面に立たされそうな名人だが、不利な局面で繰り出す起死回生の妙手こそ“羽生マジック”の真骨頂。将棋ソフトに詳しい武者野勝巳七段も、
「まさに人類とコンピューターの最終決戦ですが、持ち時間が3時間以上あれば羽生君は負けないでしょう。コンピューターに引けを取らない正確な読みと、意表を突く指し手、さらに終盤の強さを考慮すれば、明らかにソフトの分が悪い」
もちろん、勝負に“絶対”はない。それでも瀬戸際の攻防を目撃したいと思うのが人間の性(さが)なのだ。