榊原郁恵「きっかけは次男の反抗期だった『いくえ農園』」/「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

 紀元前のローマの政治家、キケロによると、自由人に最も適する職業は農業だそうである。現に、華やかな世界に生きる「芸能人」には土いじりへの回帰が増加中だ。

 ***

 野菜作りに興味を持ったのは6年前のこと。当時13歳の次男が反抗期を迎えて、どう対応したらいいか悩みを抱えていた時期でした。

 母親はこうあるべきという思いに囚われ、子どもたちを“あれはダメ、これはダメ”と怒ってばかりでした。でも、自分の言葉に説得力がないことも分かっていて、「本当に自分でそう思ってる?」と自問することも少なくなかったんです。

 私も50代に入った時期で、自分の発言に説得力を持たせたいとか、社会に貢献できる存在でいたいと考えるようになっていました。人間としての“厚み”を持ちたいと望んでいたんです。

 そんな折に、「日本の食料自給率は先進国で最低」というニュースを目にしました。今後の日本や子どもたちの将来にかかわる問題だとショックを受けて、それなら野菜を作るだけではなく、一から農業を勉強しようと思い立ったのです。

 私の地元は神奈川県の厚木市。米軍基地のイメージがありますが、緑豊かな地域でもあります。農業も盛んなので、ここで野菜作りをすることに決め、厚木のJAに相談してみたのです。

 すると「農業塾」という、初心者が農業の基礎知識を学べるプログラムがありました。私は週に1度、そこに通って肥料の使い方や農薬の種類などを学ぶことにしました。

■1000本のキュウリ

 最初に育てたのは入門編とも言うべきキュウリでした。種から育てるのですが、どうしても過保護になっちゃって。水をやり過ぎた結果、茎が細くひょろひょろになってしまいましたが、先生の苗は茎がしっかりと太く育っていました。

 結局、何も知らない私は先生の苗を10本植えました。でも、キュウリって1本の苗に100本もなるんです。だから収穫数は1000本以上! どうやっても食べきれず、知人に分けたりしょうゆ漬けやビール漬けなど色々頑張ったんですが……。もう、一生分のキュウリを食べましたよ。

 2年の農業塾を終えると、卒業生の主婦3人と“いくえ農園”を始めました。引き続き厚木に100平米ほどの農地を借り、名前に魅かれて『ティンカーベル』というミニトマトや『ピーターパン』というズッキーニなどを作っており、今年はトウモロコシに挑戦しています。

 とはいえ、野菜作りには手間暇がかかります。畑の雑草は抜いても抜いても生えてきて1週間も留守にするとビッシリです。台風でビニールハウスが飛ばされた時は、ねじ曲がった骨組みを元に戻してビニールを貼り直すなど、体中あざだらけになりながら修繕しました。

 家族は主人(俳優の渡辺徹)が写真を撮りに来たくらい。みんな食べる専門で、生姜の佃煮は好評でしたね。野菜作りは子育てに似ていて、病気や悪い虫を防ぐ“農薬”は一定程度必要と思っています。子どもは怒り過ぎてもダメですし、叱るタイミングも重要。そういう考えになれたのは、野菜作りのお陰ですね。

 現在は『プラチナエイジ』という熟年ドラマに出演していて、夫以外の男性に魅かれる60代の人妻を演じています。この世代には、夫婦で野菜作りに取り組んでいる方も多いみたい。でも、うちの場合は私が色々と文句を言ってしまってケンカになっちゃうかなあ。

「特集 『土いじり』に回帰した『芸能人』の野菜作り PART2」より

週刊新潮 2015年5月21日菖蒲月増大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。