徴兵制から最も遠い「自衛隊」の真実【前編】 オキナワの海を守る「P-3C」搭乗記――杉山隆男(作家)

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■国と国との接点

 この那覇基地でP-3Cの運用にじっさいあたっているのは、海上自衛隊の第五航空群第五航空隊と呼ばれる部隊である。ここには、パイロットらクルーが所属している第五一、五二の二個飛行隊の他、P-3Cの毎日のメンテナンスを受け持つ列線整備隊が加わっていて、指揮官をつとめるのは隊司令の尾畑典生一佐、軍の階級で言う大佐だ。

 その尾畑司令が那覇に着任したのは昨年八月だった。前任地は防衛省自衛隊がヘッドクォーターをおく東京市ヶ谷で、さらにその前は、那覇と同じく、東シナ海を監視フライトのエリアに持つ鹿児島の鹿屋基地だった。このため、「鹿屋とあまり大きくは変わらないんだろうな」と思って那覇にやってきたという尾畑司令は、着任早々、鹿屋にいた当時との違いに驚かされている。

 何がいちばんの違いでしたか。そうたずねると、尾畑司令は即答した。

「緊迫感ですね」

 そして、那覇に来て、はじめてクルーと一緒にP-3Cで飛んだときの話をはじめた。

「訓練エリアにもう外国の船舶がいるんです。やはりここは現場なのだと、鹿屋にいた頃とは違って、いまはもうかなり最前線という感じがしたと、それが私の着任したときの率直な思いです」

 司令はやはり国を特定しない言い方をしたが、私はその司令が口にしなかった「外国」を勝手に決めつけて、中国という国名を持ち出した。

「司令がご自分の眼で最初に見た中国の船舶というのは、いわゆる海洋観測船とか、そういう船だったんですか?」

「ちょっと記憶が定かではないのですけど、外国の艦艇だったと記憶しています」

「目視したとき、やはりかなり緊張感が……」

 あります、と尾畑司令はうなずいた。

「それはもちろん、もう軍艦だと、もうひとつの国ですからね」

 私は思わず司令の言葉を繰り返した。

「ひとつの国」

「こちらも国の飛行機ですので、やはり国なんですね。そこはもう、国と国との接点になっているという感じはしました」

 P-3C、たった一機でも、「日本国」。頭でわかったつもりでも、ほんとうの意味はその場に身をおいた人間でなければわからないだろう。

「那覇の部隊にも若い隊員がたくさんいますから、きみたちがやることは、もう国がやったことと同じなんだ、ということをしっかり認識させるように日々教えこんでいます」

 現場でパイロットたちクルーを率いている五二飛行隊の岩政隊長が、部下、とりわけ機長としての責任をになう幹部に毎日のように説いてやまないことがある。

「とにかく国際法を勉強しなさい。国際法を理解しないで飛ぶことは許さない」

 緊迫感が煮えたぎるオキナワの海は、国と国が対峙する、まぎれもない最前線なのだ。

杉山隆男(作家)

週刊新潮 2015年5月7・14日ゴールデンウイーク特大号掲載

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