中国進出「日本企業」への悲惨な「チャイナハラスメント」――相馬勝(ジャーナリスト)

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■漢字のロイヤリティ

 スズキで30年以上、中国でのビジネスに携わり、今年、その体験をもとに『チャイナハラスメント 中国にむしられる日本企業』を著した松原邦久氏も、彼らのカネヘのシビアさを痛感したという。ある中国の自動車会社との交渉の席で、ロイヤリティとして、1台当たりの金額を要求した時のこと。

「そのとき、相手側からは、私の話が終わるか終わらないうちに“日本は漢字や箸を中国から持っていったがロイヤリティは払ったのか”との質問が出たのです。答え次第では交渉が紛糾することは分かっています。私は自信を持って、払ったと答えました。すると、相手は“どのようにして、いくら払ったのか”と追及してきた。“漢字は主に遣隋使や遣唐使が日本に持ち帰りましたが、彼らが中国に来るとき持ってきた金銀財宝で払ったのです”と切り返すと、相手は一瞬呆気にとられて“それだけでは少なすぎる”と悪あがきをしましたが、“少ないなら、その時に言わないといけないでしょう”と畳み込むと、何も言わなくなりました」

 貰えるものは際限なく要求する一方、出すものについては、難癖をつけてでも払わない――。図々しいことこの上ないが、ある意味では利益にひたすら執着する逞しさと見ることもできる。いずれにせよ、これでは、馬鹿正直にルールや規範に従おうとする日本人ビジネスマンが生き抜いていくのは、なかなか難しいのだ。

 どうだろうか。夢見る中国ビジネスの「厳しさ」が伝わっただろうか。

 もっとも、そうした“事情”もあってか、近年、日本企業は中国を敬遠する傾向が強まっているという。シンクタンク「21世紀中国総研」の調査によれば、10年に中国から撤退した日本の上場企業は12社。それが11年には23社、12年には56社、13年には76社と、加速度的に増えているというのだ。むろん、中国の経済失速や、労働者の人件費の増加、反日暴動の影響も背景にはあるだろうが、市場環境の厳しさにようやく日本企業が気付いてきたと見ても決しておかしくはあるまい。

 先の津上氏は言う。

「いまでこそ中国は、世界第2位の経済大国と自負していますが、これまでの200年間は列強の植民地となり、辛酸を舐めてきました。一方、日本は戦後、経済繁栄を遂げてきた。時に日本に対する居丈高な態度は、これまでのトラウマの裏返しといえなくもない」

 古来、日本人は、大国・中国に漠然としたあこがれと畏れを抱いてきた。それゆえ、いつの時代も引き寄せられるように進出してきたワケだが、今一度、シビアな目で彼の国を見つめ直すべきではないだろうか。雪崩を打つような中国進出によって、我が国が痛い目を何度も見てきたのは、これまでの歴史が証明する通りなのだから。

相馬 勝(そうま・まさる)
1956年生まれ。東京外国語大学中国語科を卒業後、産経新聞社に入社。外信部に勤務し、香港支局長を務めた。2010年退社後、フリーのジャーナリストに。著書に『習近平の正体』(茅沢勤名義)など。

週刊新潮 2015年5月7・14日ゴールデンウイーク特大号掲載

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