「ダンプ松本」は「実のダメ親父」をぶっ殺すためにプロレスを選んだ

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 中原中也は『山羊の歌』で、こう告白する。〈酒をのみ、弱い人に毒づいた〉。これだけならまだしも、ギャンブルや女に耽溺した実父を許せなかったのが、女子プロ界を牽引してきたダンプ松本(54)。そして、この伝説の悪役(ヒール)は、ダメ親父をぶっ殺すためにレスラーを選んだと語るのだった。

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「とにかく酒癖が悪くてね。5歳のころ、親戚の葬儀に出かけた際のこと。酔っぱらった父が、バットを持って母を追っかけ回してた」

 と凶事を振り返るのは、ダンプご本人だ。あまつさえ仕事が長く続かない彼に代わり、家計を支えたのは母親。布団に綿を詰める内職で糊口をしのいできた。

「パチンコも好きでね。それで見た目も悪くなかった父は、外に女を作って家に寄りつかないこともあった。家族でその女を訪ねて行って、ドアをノックしたらなんと父が出てきてね。家の中には赤ちゃんを抱っこした女が……。大人たちが話し合いをしている傍で、何も知らない子供らで遊んだことを覚えています」(同)

 いつも母を泣かせる父。「死んじゃえばいいのに」と思い続けたダンプが中学生になった時のことである。

「テレビでマッハ文朱さんを見て憧れたの。その後、ビューティ・ペアが出てきて、プロレスヘの思いが抑えられなくなった。強くなれば父をぶっ殺せるし、お金を稼いで母に美味しいご飯をたべさせてあげられる。他に選択肢はなかったよ」

■“ぽっくり逝って欲しい”

 プロデビュー後、悪役として頭角を現し、最盛期には年間300試合をこなした。

「生傷は増えても病院に行く暇がなく、シャンプーやリンスで消毒する日々。テレビの出演料も含めれば、年収は3000万円を優に超えた。そこから月に10万円を母に仕送りしていたけれど、これが父のパチンコ代に流れていたと後で知ってね。愕然としましたよ」

 それでも「実父をぶっ殺す」という目標があるから、艱難辛苦も耐えられた。それがある日、ふと頭によぎったことがあった。

「本気でパンチしたら、ちっちゃくて細いこの男は死んじゃうなと。となると、殺したいけどそうしようとは思わなくなる。私は先輩から散々イジメられたから、憎いとはいえ弱い者に手をあげる気にはならない。それに、あんな奴を殺して人生を棒に振る方が嫌だと考えるようにもなったのです」

 差し当たって願うのは、

「ぽっくり逝って欲しいってことだけ。父は今83歳だけど、さらに長生きした挙句、母に下の世話までさせるとなったら最悪でしょ」

 その一方でダンプの母・里子さんは、

「お酒が好きで短気な2人は似た者同士。仲直りしてくれるといいのですが」

 と吐露するが、評論家・唐沢俊一氏の分析によると、

「父親に対する娘の憎しみというものは、母親を介在している限り、消えることはありません。娘にとって“母親=自分の分身”に他ならないからです」

 分身が傷ついたという記憶を払拭するのは、そう容易ではない。事実、ダンプは昨年、父親と40年ぶりに言葉を交わしたのだが、

「“これまでのことは謝る。水に流してくれ”ってね。でも許せるわけがない」

 かくして、リングで悪女、すなわち鬼を演じた彼女と父の相克は続くのである。

「ワイド特集 魔女と淑女と悪女の冒険」より

週刊新潮 2015年5月7・14日ゴールデンウイーク特大号掲載

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