「横浜市立大学医学部」眼科教授と「故金丸信」主治医の白い巨塔
教授と助教授の身分差は、殿様から足軽頭ほどの差があいてるのやから、早く助(すけ)の字が取れるようにならんと――『白い巨塔』の中で、次期教授を狙う主人公に愛人がかけた言葉である。この待遇の差ゆえに、教授人事をめぐっては、数多の医学部で軋轢が生まれてきたが、いまその渦中にあるのは、横浜市立大学だという。
***
同大の関係者を驚かせているのは、3月末の理事長退任。当時の田中克子理事長が任期を2年も残したまま辞めてしまったのである。これについて、
「昨年の奇怪な教授選が影響しているのでは」
と言うのは、同大の医学部幹部だ。
「昨年4月、うちは5つの講座を新しく開設し、それぞれ主任教授を設けました。しかし、選考の仕方に問題があった。通常、主任教授の選挙は、公募を行い、それを選考委員会が絞った上で、最後は主任教授による選挙で決めるのです。ところが、新教室の場合は、公募も選考委員会もなく、事実上、理事長の指名で決まりました」
異例の決定に、医学部の同窓会や教授の有志が意見書を出したというから、穏やかではないのである。
■ベッドの証人尋問
さらに、その新教授の一人について漏れ出た、芳しくない話――。眼科から分かれた「視覚再生外科学教室」の門之園一明主任教授である。
「昨年、白内障などで彼の手術を受けた女性がうちを訪れたことがありました」
と、横浜市内のさる眼科の院長が言う。
「視力が回復しないので、門之園さんに訴えたところ、横柄な態度を取られたと激怒していて、提訴する! とまで息巻いていました」
今年、同教授の診察を受けた男性患者も言う。
「『網膜症』の手術の相談で、市大病院に行くと、彼は“うちなら1年後でないと出来ない”“急ぎであれば1カ月以内に何とかするが、2週間の入院で100万~200万円かかる”と言うのです。不審に思って別の眼科に行ったら、2泊3日、20万円で済みました」
こうした“評判”を受け、同大附属病院の関係者が声を潜めて言うのだ。
「彼はプレイボーイで、他の教授の悪口を平気で言うこともあり、評価は相半ばしていた。しかし、有力な後ろ盾を持つ。著名眼科医の佐伯宏三先生、その人です」
市大のOBで、県内で『佐伯眼科クリニック』を経営する同氏は、ピーコやラモスの手術を行った経験を持つが、何より知られるのは、故・金丸信氏の主治医としてである。1992年、佐川急便事件で証人喚問を要求された金丸氏は、当時の佐伯氏の勤務病院に入院。ベッドで尋問に応じて大きなニュースとなった。
「佐伯さんは、金丸さんからの寄付を受け、眼病研究の財団を主宰していますが、門之園教授はその理事で、田中前理事長も評議員を務めた、言わば“お仲間”。この力学もあって、彼は教授に納まることが出来たと見られています」
当の門之園教授に聞くと、
「ご指摘の患者さんについては記憶にありません」
とのみ言うものの、一連の件では告発文が市大の新しい理事長の元に届いているという。ハマの市民病院を揺るがす、眼科版『白い巨塔』の第二幕。新体制の視界は曇ったままのようだ。