「やるか…イヤ…やらない」 官邸「ドローン四十男」気弱なブログ原文公開

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 もしも爆発物を積んでいたら……。そう考えると背筋がゾッとする、総理官邸で小型無人機「ドローン」が見つかった事件。実は、犯人自ら、その経緯を克明に書き綴ったブログが存在する。それを読むと、彼のじつに気弱な性格が手に取るように分かるのであった。

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 4月25日未明、警視庁公安部の捜査員たちは、必死の形相でパソコンに向かっていた。「ドローンを総理官邸に飛ばしたと言って、出頭してきた男がいる」。福井県の小浜警察署から警察庁に上げられた情報の真偽を確認するため、ネット検索を行っていたのだ。そして、見つけたブログのタイトルは〈ゲリラブログ参〉。中を覗くと、驚くべき書き込みや写真があった。

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 菅義偉官房長官の会見は、総理官邸の3階で平日、1日2回行われる。4月22日の午前の会見もいつも通り、11時から30分間行われた。ところが、ちょうどその頃、官邸の屋上では、

「職員が新人研修のため、たまたま屋上に行ったところ、ドローンが落下しているのを発見。官邸に常駐する警視庁の警備隊に通報したため、屋上には続々と捜査関係者が集まり、騒然となっていた。しかし、菅さんにこの件が伝えられたのは会見終了後の11時半過ぎ。情報を上げるのが遅すぎた、と危機管理体制への批判が出ています」(官邸関係者)

 官邸屋上にあったのは、DJI社の「ファントム2」。大きさは一辺約60センチで、機体にはカメラ、プラスチック容器などが搭載されていた。捜査関係者の話。

「容器付近から放射線が検出されたため、背後に思想的なものが絡んでいる可能性があった。そこで公安部が扱うことに。中でも、革マルや反原発団体を担当する公安2課が中心となって捜査が開始されたが、その矢先、犯人が小浜署に出頭したのです」

 威力業務妨害の疑いで逮捕されたのは、小浜市在住の無職、山本泰雄(40)である。冒頭、ご紹介した〈ゲリラブログ参〉は、

「山本が、昨年7月から『官邸サンタ』の名で書いていたものです。ただし、これを公開したのは出頭する直前だった。犯行に至る詳細な経緯や、官邸の屋上にあったのと全く同じ装備のファントム2の写真などが掲載されています。警察に行った後、自分が犯人であることを証明するためにやったのでしょう。公安部の捜査員は彼からブログの存在を知らされ、慌てて検索したのです」(公安担当記者)

 では、その中身の一部(原文ママ)をご紹介する。まず、7月19日には、

〈再稼動を止めるためにはテロをも辞さない〉〈ゲリラ戦〉〈ローンウルフだ〉〈破壊活動とテロの区別…難しいな…〉

 などの記述。地元の大飯原発再稼働を阻止すべく、最初から「ゲリラ戦」を計画したようだ。それが、具体化するのは、

〈2週間くらい車で走りながらずっと次の行動を考えてた…/ドローンを使えないだろうか…〉(10月3日)

 更に、計画は煮詰まって、

〈官邸の階段で閣僚の集合写真撮って初閣僚会議開いて…/決行はこの日だな…/第3次阿倍内閣の出鼻を折る〉(11月21日)

 ちなみに、21日は、衆院が解散した当日だ。その後、元々、白色のファントム2をマットブラックに塗装。

〈最悪官邸敷地内での墜落でもOK〉(12月5日)

「機動警察パトレイバー」というアニメに登場するロボットの名に因んだのだろう、「グリフォン」と命名している。

■気が狂うほど後悔

 さて、「黒い羽根作戦」と名付けた計画を実行に移す時がやって来る。山本は、第3次安倍内閣が発足した当日(12月24日)、午前9時に自宅近くでドローン操作の最終確認をした後、車で東京へ出発。18時に官邸前に到着した。仮眠を取った後、21時に起きたが、

〈NHKで首相の記者会見を生中継…そろそろか…〉

〈人通りは無い…/車の屋根にドローンを置き離陸準備…〉

 ところが、である。

〈…飛ばせない…/スティックを動かせば離陸できるのに…/メンタル…〉〈こんな小さいラジコンでパニックを起こせるのか…失笑に包まれるのでは…〉〈一旦ドローンを回収…〉

 挙げ句の果てには、

〈もっと衝動的怒りを伴うタイミングでないと社会的効果も薄いか…〉

 要は、怖気づいたらしく、計画は一旦、頓挫。

〈帰りの道中少しホッとしている…/家に着いた頃には気が狂うほど後悔…飛ばしたかった…〉

 揺れる心境を綴った。ここで断念しなかったのが、この男の執念である。今度は、4月8日にドローンを官邸に墜落させ、12日投開票の福井県知事選に混乱を生じさせることを画策。

 もっとも、8日の午前1時赤坂に到着したが、雨風が強く、中止することに。しかし、翌9日の午前3時30分、再び赤坂に行き、

〈離陸地点を通りから入った駐車場に変更…ビルの谷間…電波が心配…/迷わず離陸…〉

 ついに、ドローンを官邸に向け飛ばしたが、

〈官邸上空…中庭…全く見えない…真っ暗…/官邸の輪郭すらつかめない〉〈目標を官邸前庭に変更/前庭のライトめがけて下降…〉〈そのまま完全ロスト…/しばらく待つも戻らず…現場離脱〉

 10日、午前10時45分、小浜市に戻ったものの、

〈帰宅後ニュースをみるが…何も報道ない…〉

 山本は、ドローンを官邸の前庭に着陸させたつもりであった。しかし、報道されなかったため、行方不明になったと思ったようだ。

 とはいえ、22日に官邸屋上で職員が発見すると、一転、

〈遅せーよ職員!〉〈2週間放置て…〉〈犯罪者は自分の報道をこんな感じでみるのか…〉〈選挙終わったから自首してもなあ…〉

 と、半ばホッとしたような心境を覗かせている。

 13日もの間、ドローンを発見できなかった官邸が、お粗末であることは言うまでもない。そして、小浜署に出頭した24日は、やはり、発見が遅れたことに触れ、

〈選挙(注・福井県知事選)とっくに終わって意味無くなった…/官邸を狙うときは2週間前に飛ばさないといけないのか…難しい…〉

 そう不満を吐露している。

 さらには、

〈前例ない道を1人で歩くのはシンドイ…/核の平和利用vsテロの平和利用…再稼動の進行にあわせてリミッターを解除していけばイスラム国と変わらなくなる…〉

 と、身勝手なことを言い出したかと思えば、

〈自分の無能さが悲しい…/官邸の警備も無能で悲しい…〉〈ドローン1機で右往左往…証拠処分してしまえば捕まらないな…〉

 と書き込み、性懲りもなく、

〈もう1回やるか…/警備を強化した官邸に更に汚染土積んだドローンを落として…/そんなことしても再稼動は止まらないしな…/でも面白そうだな…やるか…イヤ…やらない…〉

 そうのたまうのであった。

■一人でやった

 山本は独身。地元の若狭東高校を卒業後、航空自衛隊、派遣会社などを経て、地元にある電機メーカーの工場で働いていたという。

 3人兄弟の次男だが、小浜市内の実家で母親と長男と暮らしている。山本家を知る関係者によれば、

「父親が元々、市内で工作機械の部品加工会社をやっていた。しかし、20年くらい前、経営が傾いたようで、自宅で猟銃自殺し、現在は長男が後を継いでいます」

 電機メーカーを退職したのは昨年7月だが、

「その後はプラプラする毎日で、母親はどこか就職先がないかといつも心配していました。高校時代は金髪にして、明るく社交的だった。漫画好きで、自分で描いたものをよく出版社に売り込んでいた。まさか、こんな事件を起こすなんてびっくりです」(同)

 公安関係者が言う。

「地元の反原発の集会には、時々参加していたことが確認されています。ただし、特定の団体に所属していたわけではなく、完全な一匹狼だったようです。“一人でやった”という供述も嘘ではないでしょう」

 これほど過激なことをやる反原発の人ならば、“左巻き”の思想を持っていると思いがち。しかし、この人は、昔自衛隊にいただけのことはある。例えば、川内(せんだい)原発近くにある反原発テントを指して、

〈経産省前のホームレス小屋もだけど反原発のイメージを悪くしている…汚い/そもそもテント生活に何の意味があるのか…/原発施設内につながる地下トンネルでも掘っているのか…/恐ろしいな…左翼は…〉

 経産省前のテントを意図的に“ホームレス小屋”呼ばわりしているのであれば、かなりの悪意がある。

 それから、キューバの革命家、チェ・ゲバラを信奉しているらしく、ブログを読むと随所に彼の言葉が引用されていて、

〈39歳…思うように身体を動かせる期間はあとどれくらいか…/「ゲリラ戦士に適した年齢は25歳から35歳までの間である」(チェ・ゲバラ)〉(7月14日)

 犯行にあたって「参考書」として挙げている書籍は、『ゲリラ戦争』(ゲバラ)、『原発の倫理学』(古賀茂明)、『原発のウソ』(小出裕章)、『逆転力』(指原莉乃)など。

 ドローンは、現行の航空法で航空機にあたらず、官邸周辺では高度250メートル未満での飛行に制限はないという。この点について、山本は、

〈多分今がドローン規制前の黄金時代…/今年に入ってホワイトハウスに墜ちたり世界中で話題に…/今からやっても乗り遅れ感…〉

〈法整備前に飛ばしてしまおう〉

 今後は、模倣犯を防ごうと、早くもドローンを規制する動きが出ている。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が話す。

「メーカーは、プログラムで官邸や皇居周辺を飛べなくするという対応策を打ち出しています。しかし、知識のある人なら、プログラムを書き換えることも可能。政府は航空法改正による飛行規制や、登録制を検討中と言われています。しかし、本物のテロリストには全く意味がないでしょう」

 残念ながら、こんな気弱な“反原発男”による「テロ」が、緩み切った官邸の警備体制に一石を投じたことは間違いない。なんとも皮肉な話である。

週刊新潮 2015年5月7・14日ゴールデンウイーク特大号掲載

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