人はなぜ、マツコ・デラックスを見てしまうのか

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平日はどこかにマツコが

「月曜から夜ふかし」(月、日本テレビ系)、「マツコの知らない世界」(火、TBS系)、「マツコ&有吉の怒り新党」(水、テレビ朝日系)、「アウト×デラックス」(木、フジテレビ系)、「全力!脱力タイムズ」(金、新番組、フジテレビ系)、「マツコとマツコ」(土、新番組、日本テレビ系)――。

 4月の番組改編で、日曜を除く週6日レギュラー番組を持つことになったマツコ・デラックス。いま、テレビの世界で飛ぶ鳥を落とす勢いと言えば、この人を置いてほかにないでしょう。

 その人気の理由を、経営コンサルタントの佐藤智恵さんは著書『テレビの秘密』(新潮新書)で、「マス層とニッチ層の両方に訴求する要素を持っているから」だと語ります。
 
 子どもの頃からのテレビ好きが高じて、新卒でNHKのディレクターになった佐藤さん。アメリカでMBAを取得した後も、外資系のテレビ局で経営や編成に携わっています。現在は、コメンテーターとしてテレビに出演するようにもなり、日米のテレビ業界をあらゆる角度から見ることになりました。

 さて、具体的にマツコのどういう点が、視聴者に受けているのでしょうか。まずは、マス層から。

マツコとは超人である

「最も大きな要因は、マツコさんが『超人的存在』だからだと思います。ご存知のとおり、マツコさんは、男性と女性の間にいる方。しかも、巨体に、お釈迦様を彷彿させるような髪型と衣装。そう、普通の人間を大きく超えてしまっている存在なのです」

「相棒」の杉下右京も、米人気ドラマ「24」に登場する無敵の捜査官ジャック・バウアーもしかり。
「『人間を超えた存在』は、もはや好き嫌いの対象ではありません。ただただ“見てしまう”」のだそうです。

マツコとはこだわりである

 一方、ニッチ層に受けるのは、そのマニアックぶりだとか。
「マツコさんは何かと、自分なりの『こだわり』を力説するのです。たとえば、『マツコの知らない世界』。この番組では、マツコさんのマニアックぶりが、これでもかというぐらいに発揮されます」

 たとえば、「プッチンプリンが大好きなのだけれど、お皿は汚したくないので、口をあけたまま“プッチン”する」とか、同じコンビニの唐揚げでも「ローソンとサークルKは衣が違う」とか、「ナポリタンにエビが入っているのは許せない」とか……。

「どの番組でも、マツコさんは細かすぎるくらいのディテールを語る。抽象的なことは一切言いません。
 超人的な存在が、ものすごく細かい話をしたり、美味しそうに料理を食べたりする。それだけで十分に面白い。マツコさんの番組に雛壇など必要ありません」

 こう分析する佐藤さん。「マツコ×マニア」の組み合わせは、「しばらくテッパン」と予想しています。

マツコとは人間通である

 また、佐藤さんは、同書の中で、マツコさんの「弱者愛」にも着目しています。
「マツコ&有吉の怒り新党」の中で、たびたび登場する、お菓子を用意するアシスタントディレクターの女性(通称・お菓子ちゃん)をよく褒めたり、彼女に話を振ったりする点から、「弱者愛」が感じられるというのです。

「アシスタントディレクターは、番組制作スタッフのヒエラルキーの中ではいちばん下で、最も過酷な仕事をしている人たち。
 出演者の中には、プロデューサーにはぺこぺこするのに、アシスタントディレクターには横柄な態度をとる人もいます。でも、そういう出演者は、あっという間に消えていくのが芸能界の常識。番組は、スタッフと出演者が一丸となって、つくりあげるものだからです」

 佐藤さんは、マツコさんを見ていて「この人、本当に世の中の仕組みがよくわかっているな」と感心させられるそうです。

「売れっ子となり強い立場になっても、弱い立場の人への思いやりを忘れていない。だから毒舌を吐いても許されるのです」

 もちろん、「いや、その分析はおかしい。私はこう思う」と別の「マツコ論」を唱える方もいらっしゃるでしょう。そんな風に、議論の対象にしている時点で、私たちは彼女に惹きつけられてしまっているということかもしれません。
 視聴者は、まだまだ、超人マツコを“見てしまう”ことになりそうです。

デイリー新潮編集部

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