参加料3600億円という中国「AIIB」に日本は敗北したのか

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 国際機関の看板を掲げながら台湾を締め出すなど、さっそく「本性」を現し始めたAIIB。日本が参加しないのは失敗だったなどと批判もあるが、中国がやって来た援助は我田引水と環境破壊のオンパレードである。参加見送りはむしろ日本の「良識」か。

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「日本外交の敗北」「アジアで孤立」など、まるで太平洋戦争前夜のような騒ぎなのである。

 中国が提唱する「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」の設立メンバーが、3月一杯で締め切られた。同行には50もの国が参加を表明したが、日本とアメリカは見送りを決めている。これに対して、朝日新聞や日経新聞、それに野党からも厳しい声があがっているのだ。それにしても、AIIBがこれほど注目されるのはなぜなのか。

 経済部記者が言う。

「同行は世界銀行やアジア開発銀行(ADB)と同様に、途上国のインフラに資金を提供するのが役目です。アジアでは、2011年から20年までに約8兆ドル(960兆円)の資金需要が発生するとされていますが、世界一の外貨準備高を持ちながら、中国は世銀や、日本の財務省がガッチリ押さえるADBで主導権を取れなかった。そこで、日米に挑戦する形で提案したのがAIIBというわけです」

 この銀行、名前こそ国際機関だが、まるで中国の銀行のようだ。

「資本金は当初500億ドルですが、中国政府がAIIBの4割~5割の資金を出す予定で、本部は北京の金融街に建設している。初代の総裁も元財政次官の金立群氏が就任すると言われているのです」(同)

 当初、日本政府はこれを脅威とは考えていなかったという。経営が不透明で参加する国は少ないと見ていたのだ。ところが3月12日、それまで不参加とみられていたイギリスが手を挙げるとフランスやドイツが雪崩を打って参加を表明する。

 政治部の記者が言う。

「これは明らかに外務省と財務省の情報不足でした。習近平は2年前にAIIBの構想を明らかにしていますが、水面下でイギリスに周到な工作を仕掛けていたのです。ご存じのように、イギリスのキャメロン首相は13年12月に中国を公式訪問し、昨年3月にもハーグで習近平と会談をしている。ここで、イギリスを落とすために、中国は相当踏み込んだ交渉を持ち掛けていたのです」

 この問題を取材してきた産経新聞特別記者の田村秀男氏によると、

「中国はAIIBへの参加と引き換えに、ロンドンの金融市場で人民元の決済センターを作ることを取引条件にしたといわれています。イギリスは人民元の決済機能を誘致することで国際金融センターを維持したい。そして、中国もいずれは人民元をドルのような国際決済通貨にしたいはず。両者の実利が合致したということでしょう」

 欧州の中でもイギリスを崩せば他の国もついてくるという習近平の読みは的中する。あとは、米国に近いアジアの主要国をどう籠絡するか。ターゲットは韓国だった。

「中国は北朝鮮の参加を断っていますが、当初、韓国に対して北朝鮮への投資は大丈夫だと伝えていたのです。総会で追加承認されるだろうというメッセージを送っていますから。これは、北朝鮮のインフラビジネスをやりたい韓国にとって願ってもない話でした。そして、3月26日、韓国も駆け込みで参加を表明するのです」(同)

 締切日の31日、安倍首相は財務省の山崎達雄財務官と浅川雅嗣国際局長、そして外務省の長嶺安政審議官を官邸に呼びつけてこう叱責したという。

「どうなっているんだ。君らの情報は間違っていたじゃないか!」

 出遅れた日本は、6月の日中財務対話の場で、追加の参加表明をする可能性が残されているが、そうなった場合は完全に中国のペースだ。

「ここで日本が参加すればGDPの規模からして3%の1800億円は出さなくてはなりません。しかも、資本金は2倍の1000億ドルに引き上げられますから3600億円の拠出を迫られることになる」(田村氏)

 今からでも遅くないから多額の参加料を払ってAIIBに参加するべきなのだろうか。

■日米を取り込みたい

 だが、押っ取り刀で参加するのは余計に危ないと指摘するのは先の田村氏だ。

「中国がAIIB設立を急ぐのは、国内がバブル崩壊寸前になっているからです。巨額の外貨準備を保有しているといいますが、資本がどんどん逃げ出しており、昨年12月までの半年で外貨準備高が1500億ドルも減っている。これは大変なペースです。そのため、中国は借り入れを増やし、世界最大の借金国に陥っている。そこで、アジアのインフラ建設をぶちあげ、資金集めに乗り出したのがAIIBの正体です。そこに、国内に溢れる過剰設備、過剰人員をドーンとつぎ込みたいというわけです」

 ジャーナリストの青木直人氏も、AIIBは環境破壊を輸出しかねないと警戒する。

「ADBは環境破壊につながる開発や独裁国家に対して融資を認めません。審査も厳格です。AIIBはそれを省いてしまおうと狙っているのです。90年代にADBの主導で始めたメコン川の流域開発では中国も参加したのですが、上流の中国国内でどんどんダムを作ったものだから環境破壊につながった苦い経験がある。それでなくとも中国のODAは数々の開発が問題になってきました。うっかり乱開発に巻き込まれたら日本まで批判の矢面に立たされる危険性があります」

 意思決定はメールのやりとりだけとするなど、共産党の決定を追認するだけの銀行になるという懸念も払拭されていない。それもあって日米が参加しなければトリプルAの格付けが取れないとも言われているのだ。

 だから、と拓殖大学教授の富坂聰氏が言う。

「中国は債券の格付けを上げるために、今も日米を取り込みたいと考えています。これに対して、日本はAIIBが本当に利益になるのか、時間をかけて見極めてからゲームに参加できるようにしておいたらいい」

 切り札となるスペードのジャックは、まだこちらの手にあるのだ。

週刊新潮 2015年4月23日号掲載

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