株価2万円の功労者でも「黒田日銀総裁」が目をそむけたいこの数字

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 あたかも、「山のあなたの空遠く」(詩人のカール・ブッセ)まで届くかのような飛躍である。僅か2年余で、日経平均株価はほぼ倍に、去る10日には一時、2万円台を回復した。このトレンドを異次元金融緩和で演出した当の日銀・黒田東彦総裁(70)は、功労者であるにもかかわらず破顔一笑とはいかず。何しろ、目をそむけたい数字が横たわっていて……。

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 2月12日のことである。経済財政諮問会議の席上、黒田総裁による“オフレコ発言”が、今もなお燠(おき)のようにくすぶっている。

 それは、「英独が“自国の国債もリスク資産にすべきだ”と言っている。そうなれば日本経済に大変な影響がある」というものだった。

 経済ジャーナリスト・須田慎一郎氏によると、

「『自己資本比率8%』を維持していない銀行は、国際業務ができないという取り決めがある。これまで国債はリスクゼロとされていたので、日本の銀行は大量に保有していました。それがリスク資産と見なされる可能性があるのですから、自己資本を積むため、銀行が一斉に国債売却へ踏み出すことが予想されるのです」

 むろん、銀行が第三者割当増資などを行なって、資金を集める手法もないわけではない。ただそれは、コストや時間の面から制約が大きいのだ。

 シグマ・キャピタル・チーフエコノミストの田代秀敏氏が、後を受ける。

「目下、政府が発行する新規国債のほぼすべてを日銀が購入しています。それに加えて、銀行が売りに出した国債まで買い取らねばならないといった懸念が、黒田さんにはある。国債価格が下がれば金利は上昇。せっかく上がっている株価や不動産価格が下落してしまいますから、元も子もありません」

 かといって、日銀がこれ以上のリスク資産を丸抱えするわけにはいかない。オフレコ発言は、日銀のジレンマの裏返しでもある。

■実体経済に波及せず

 田代氏が続ける。

「たとえば、賃金から物価の伸びを差し引いた『実質賃金』の指数は、今年2月には95・6で、昨年同月比で1・8ポイントも低下しています」

 株価は堅調でも、それが実体経済に波及していないさまが浮き彫りになる。その一方で、格差問題を指摘するのが、経済アナリストの森永卓郎氏である。

「厚生労働省の『毎月勤労統計』によれば、昨年の賃金上昇率は500人以上の事業所なら1・8%となっています。しかし30人未満の場合、それがほぼゼロ。いわゆる中小零細企業において、賃金はまったく上がっていないのです」

 さらに、「民間給与実態統計調査」(国税庁)も同様の傾向を示している。

「昨年公表された数字では、年収100万円以下の人が前年比で7%増える一方で、年収2500万円以上の人は同40%増に。つまり、貧富の差は拡大しているわけです」(同)

 冒頭の詩は、山の向こうに皆で行ったものの、あると言われた幸せなどなく、涙ながら戻ってきたと続く。株価に浮かれて泣きを見る人間の愚かさを、黒田総裁は見透かしているや否や――。

「ワイド特集 人間の愚かさについて」より

週刊新潮 2015年4月23日号掲載

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