「つんく♂」声帯摘出でも「こんにちは」と話せる食道発声法
歌手にとっては、苦渋の決断だったに違いない。4月4日に行われた母校・近畿大学の入学式で、音楽プロデューサーでもあるつんく♂(46)が、喉頭がんの手術を受けて声帯を摘出したことを明らかにした。実はすでに、食道を使った発声法を指導する教室に通い、“こんにちは”程度の言葉を発するくらいに上達しているのだという。
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自身がプロデュースした入学式の終盤、つんく♂がステージに姿を現すと、両脇のスクリーンから衝撃的なメッセージが流れた。
〈なぜ、今、私は声にして祝辞を読み上げることが出来ないのか…それは、私が声帯を摘出したからです〉
昨年3月、喉頭がんであることを公にし、つんく♂は芸能活動を休止。放射線治療と化学治療の併用によって、半年後には医師から“完全寛解”のお墨付きを得ていた。
ところが、わずか半月後に再発し、声帯摘出の手術を受けたのだ。
ミュージシャンの忌野清志郎や落語家の立川談志、漫才師のコロムビア・ライトなど、声を商売にする芸能人が喉頭がんを発症するケースは少なくない。
新潟大学の岡田正彦名誉教授(医学博士)によると、
「喉頭がんと診断された患者の87%が喫煙者なので、最大のリスク要因はやはりタバコです。一方、声を使う頻度の高い人は、確かに声帯にポリープができやすい。ただ、ポリープがすなわちがんになるとは一概には言い切れません。また、喉頭がんに限らず、再発した場合、被曝量の問題で放射線治療は難しくなります。ですから、つんく♂さんも、今度は手術によって患部を取り除くほかなかったのでしょう」
■歌うことも
しかし、声帯を失っても、声を取り戻すことは不可能ではないのである。
NPO法人『日本喉摘者団体連合会』の新美典子会長(79)がこう話す。
「私自身、26年前に喉頭がんを患い、声帯を摘出しました。その後、“食道発声法”を習ったことで、日常会話には不自由していません。いまは、自分と同じく声帯を失った人たちの助けになりたいと、“食道発声法”を教えるようになりました。実は、つんく♂さんも今年の2月から、“食道発声法”の教室に通っています」
“食道発声法”では、声帯の代わりに、食道をゲップで振動させて声にするという。
「“グェッ”というゲップの音を原音と言います。初心者クラスは、原音を出すことから始め、それから母音を発声できるようにする。それから、“アメ”や“オチャ”など2音や3音の発声しやすい短い言葉の練習をします。自由に原音を出せるようになるまでに、私の場合は1年以上かかりました。ですが、つんく♂さんは、早くも“こんにちは”“ありがとう”などの言葉を発することができるようになっています」(同)
さらに訓練を重ねていけば、若干のハスキーボイスながら、健常者と変わらない話し方ができるようになるという。
「上級者クラスは、発声に抑揚をつける訓練を行います。そして、完全にマスターすれば、歌を歌うことも無理ではありません。“食道発声法”でも、1オクターブくらいの音域の声を出せるようになるのです」(同)
再び、つんく♂はステージに立つことができるか。