ティクリートは落ちても「イスラム国」の戦域拡大
「ティクリートは『イスラム国』から解放された」
イラクのアバディ首相が3月31日、誇らしげに発表したとき、会見場は興奮に包まれた。『イスラム国』の掃討作戦を開始して以来、最大の戦果だったからだ。
ティクリートは、首都バグダッドと、『イスラム国』のイラク最大の拠点モスルとの中間に位置する要衝。
「ここが陥落すれば原油を産出する本丸、モスル奪還が見えてきます」(外信部記者)
世界中を敵に回した感のある『イスラム国』も、脆くも崩れ去ることになるのか。
「ですが、その翌日、シリアでは、首都ダマスカス南部の難民キャンプが『イスラム国』に制圧されています」(同)
いったい『イスラム国』は拡大しているのか縮小しているのか?
「イラク国内では今後、劇的に広がるということはないでしょうし、封じ込められるかもしれませんが……」
と言葉を濁すのは、東京外国語大学の飯塚正人教授。
「アメリカの後ろ盾を得ているイラク政府軍にはシーア派民兵組織も協力しています。これはイランの精鋭、革命防衛隊の支援を受けていて、強力です」
しかも、劇的な核合意でイランの国際社会復帰が叶えば、その影響力もさらに増し、イラク国内での掃討も見えてくる。しかし、
「『イスラム国』はむしろ拡大しているのではないか」
と言うのは現代イスラム研究センターの宮田律氏だ。
「そもそもティクリートはスンニ派の街。現シーア派政権への不信は強く、周辺から『イスラム国』を完全に掃討したとも言えません。果たして維持できるのか」
一時は蹴散らされても、いたちごっこになる可能性があるというのだ。
「しかも、チュニジアやエジプト、イエメンなどに、『イスラム国』が関与を認めたテロが広がっています。イラクやシリアの外の組織との連携をさらに強めるよう、戦略を転換した可能性があります」(飯塚教授)
ガンの組織をただ潰しても、ガン細胞が全身に広がるだけということか。
「しかも、『イスラム国』から離脱した分子が出身国で起こす、ホームグラウンド・テロの危険が増すのはこれからです」(同)
テロに怯える地域を広げるだけになりかねないとは。