「団地は世界遺産になる!」 原武史×是枝裕和“西武線沿線文化”と“団地の魅力”を語る――「東京を、西から考える」
4月9日、東京神楽坂「la kagu」内レクチャースペース「soko」にて政治学者原武史さんの著書『レッドアローとスターハウス もうひとつの戦後思想史』(新潮社)の文庫化を記念し、映画監督是枝裕和さんとの異色対談が実現した。
実は、お二人はともに西武線沿線の団地で育った同い年。原さんは東久留米市の滝山団地、是枝さんは清瀬市の清瀬旭が丘団地で暮らしていたという経歴をもつ。西武線沿線文化の影響を受けてきたお二人による、ローカルな視点から東京を語る貴重なイベントとなった。
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■団地で培われたメンタリティ
二人は無機質でひとくくりに「団地」とされてしまう公団住宅のなかにも微妙なディティールの違いがあったと語る。是枝さんは原さんの著書により、自分の育った環境も語られる価値のある対象だったんだと気づかされたという。公団住宅の生活にも1DKか3DKか、1階か5階か、賃貸か分譲かなど、均一にみえて微妙な差異が存在し、暮らしている者たちの意識の中でその差は大きな違いだったという。
また是枝さんは自分が西武という一企業の思惑の中で過ごしていたということも気づかされたという。子どもの頃遊びに行くとなれば、西武園や豊島園。家族で買い物は池袋の西武デパート。大学時代になると西武が展開するリブロやパルコの文化に憧れたという。原さんはそれこそが西武グループと堤一族が想定した生活だったと語った。生活の起点となる団地と池袋の往復だけを想定し、自家用車を使用した生活を推奨せず、西武グループの範囲のなかだけで生活がすべて完結することを狙っていたという。
また当時開発された団地は、周りが雑木林に囲まれた場所に突然団地を建て、そこに数千人が移り住んだため、周りの地域社会とは隔絶された、そこだけの小さな世界、小宇宙のような自閉性の高い空間だったと原さんは語り、暮らしていた人々のメンタリティに確実に影響していたと解説した。
■団地を世界遺産に
6月13日に「海街diary」の公開を控えた是枝さん。その次の作品は団地を舞台にした物語だと明かされた。その際訪れた団地で、年を経た団地の魅力を再発見したという。当時無機質だと思われていた団地が、今は自然に溢れている。立派な桜が並び、芝生が青々とし、棟と棟の間が広いため、生い茂った木の様子が、まるで森に包まれているようで不思議な魅力を持ちだしていると語った。原さんもそのような光景は西武線沿線にしかなく、若い人にとっても贅沢な空間だと、その魅力を語った。また原さんは「滝山団地は100年このままの状態を保ち続ければ世界遺産になれる」と力説した。
対談ではその他にも、団地の黄金時代からの転落と復権、公団と自治会の関係について、清瀬市の北と南の違いについて、団地の中でも「分譲の家の子」と「賃貸の家の子」の違い、是枝監督の次回作についてなどが語られ、大いに盛り上がった。