壇蜜「親愛なる面倒くさい人へ」――ミッツ・マングローブ

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ミッツ・マングローブ「私は、男のできそこない、女のなりそこない。『自分に正直に生きてて、うらやましい』って、それ本気?」

 とあるライターと作家に「壇蜜は女のパロディだ」と言われたことがある。誉めるでもけなすでもなく聞こえた。その言葉がずっと頭から離れなかった……つまり、私にとって「壇蜜は女のパロディ」は良くも悪くもしっくりくる言葉に聞こえたのだろう。以来、この言葉に寄り添うようにして齋藤支靜加は壇蜜として粛々とお勤めをしている。こんなことを話してはあらゆる女装を愛する方々に不快な思いをさせてしまうかもしれないが、私が「壇蜜になる」ことは一種の「女装」なのではないかと考える。ちなみにミッツさんはハイヒールをはくことで女装のスイッチが入るそうだが、私にとってのスイッチは恐らく「眉毛を描くこと」だ。アーチを描くような、細長くて髪色と極端に違う明るい色の眉毛を描く……今まで散々周囲に「変だ」と言われてきたが、何が変なのか分からないし「変ではないやり方」に変えるつもりもない。長い目で見ると「眉毛描いてセンスないなと思われる」までが私の継続しているスイッチなのかもしれない。エレベーターでいう「開延長ボタン」のような。

 ミッツさんは面倒くさい人だ……本を読んでいる途中も、読んだ後もそう思った。面倒くさい人には太刀打ちできないし近寄りたくない。己の頭の悪さ浅はかさが露呈するからだ。背負っているもの、投げ出したもの、一度は投げ出してもまた拾いに行って抱え込んでいるもの、立ち止まって考えてきたこと、寄り添おうと思っても寄り添えなかったこと……私の放棄だらけの34年間(特に20代付近)では受け止めきれないほど面倒くさい経験をされている……そんな人に羨ましいとか憧れるなんてナンセンスなことは絶対に言えない。せめて学生の頃、死に物狂いで受験勉強でもしておけばよかった……と不勉強だった自分をなじった。しかし人間はないものねだりなので私は面倒で近寄りたくない人ばかりを好きになる。だから私は、ミッツさんが好きだ。恐らくこの好きは友人になりたいとか仲間に入れてほしい好きではない……性の対象として求められて嬉しい「好き」だと思う。現にとある番組でミッツさんに「私と○○がしてたらどうする」と聞かれたので「仲間に入って良いですか」と答えたら「それは興奮する」と返され大変嬉しかった記憶がある。その先の感情に何があるのかは分からないが、私のミッツさんが好きという気持ちもまた面倒くさいことだけはお分かりいただけただろうか。

 ここまで書いて見返すとラブレターのようにも見えるが「コレ読んで書評書いてよ」と本人からの要望もあったため、好意を好意で返した次第だ。仕事、人間、恋愛……あらゆるステージに対して冷めた目を持っているくせに、「面倒くさい」女王さまに、そんな依頼を受けた小間使いのプレッシャーは半端なものでは無かったが、知ったかぶりや背伸びをすることは女王さまの意思に反するだろうから稚拙ながらも「歪」を読んだ者の記録としてここに文字をしたためた。そもそもこの本を読む前に自分に条件を課した。理解や共感、反発などの感情に引きずり込まれないこと、と。それが面倒くさい人への礼儀でもあると……「私わかる」ほど不快なものはない、と。しかし現在ネットで購入するマンガのほとんどが男性同士、女性同士の恋愛モノ……いわゆるモノセクシャル要素が入ったものであり、早朝は衣装も化粧も華やかな女性アナウンサーたちが映るニュース番組を体温高く眺め、親しい女性が髪を切ると何となくショックを受ける私には、女王さまの歪さに取り込まれそうな瞬間もあった。私は自分をストレートとは言い切れない。ストレートです、普通です、と言い切れる者がこの世に本当にいるのかといまだに疑っている。これからも疑いながら生きていくだろう。

 また明日からもミッツさんはハイヒールをはき、私は眉毛を描く。私たちは最高にチャーミングだ。コレは、疑わない。

壇 蜜(だん・みつ タレント)

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