望月ミネタロウ×松浦弥太郎 寡黙な二人が“新境地”に挑むわけを語る 文豪ナイト第二夜開催

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 東京神楽坂「la kagu」内レクチャースペース「soko」にて「文豪ナイト 第二夜」が開催された。「文豪ナイト」とは「文豪」と呼ばれる文学界の大先生を、ひとりの「人間」として見つめなおし、その愛らしさや切なさをしみじみと味わい尽くすイベント。第一夜の夏目漱石先生に続き、第二夜では美しき人情物語の名手として愛される山本周五郎先生について語られた。

 ナビーゲータは『バタアシ金魚』『ドラゴンヘッド』などのヒット作で知られる漫画家の望月ミネタロウさんと、エッセイストの松浦弥太郎さん。望月さんは周五郎の原作を大胆にリメイクした『ちいさこべえ』で、文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞。単行本最終第四集が3月末に発売されたばかり。一方の松浦さんは2006年より務めた『暮しの手帖』の編集長を辞し、新天地に向かうことが発表されたばかり。時代を超えて胸を打つヤマシュウの美学、そして二人の新しいチャレンジについても語られイベントは大いに盛り上がった。

原作もの・改名・転職にこめられた思い

 原作付きの作品は初めてだったという望月さん。今作を手がける前、これから自分が作り出すものに想像がついてしまったと述べ、そこから脱するため、自分の苦手なものを一ついれようと決めたという。そこで他の人と何かやってみると決め、原作ものを選んだと明かされた。

 また望月さんは2009年名前を漢字表記からカタカナ表記に変えた。その際の心境を「積み上げてきたものを否定するのではなく、これからは違う道も歩いてみようかと思った」と改名に至った心境が明かされた。

 松浦さんもその気持ちはよくわかると同意。松浦さんは紙の雑誌『暮しの手帖』の編集長を辞し、4月からインターネット上のレシピ検索サイト「クックパッド」への入社が発表されたばかり。松浦さんは「仕事とは大層なものではないが、無意識に目標をたてて前に進むもの。時にはその目標を見失う時もある。そういう時は勇気を出して何かを変えてみる。変えて新しいリズムを作るといい」と心境の変化が明かされた。

 望月さんは1964年、松浦さんは1965年生まれとほぼ同年代。望月さんも「お互いそんな年頃なんですかね」と笑い合った。

ヤマシュウの語らない美学

『ちいさこべえ』の主人公は顔一面ヒゲで覆われ表情がみえない。望月さんが主人公をそんな風貌にしたのは、ヤマシュウが生前挿絵画家に登場人物を描かないように、と指示していたことをあげ、言葉や表情に頼らず、所作や仕草で表現がしたかったとその意図が明かされた。

 松浦さんも主人公の握った拳だけで感情が表現されたシーンをとりあげ、これこそヤマシュウらしい表現だと絶賛。また、おにぎりを握る女性の姿を見開きで描ききった望月さんの視点に注目。望月さんはそのような日常のなにげないシーンこそ、幸福感・愛情に溢れており、見開きにする価値のあるシーンだと語った。

『ちいさこべえ』のなかで主人公は何かを探して放浪の旅に出る。望月さんは「日常は日常すぎて、小さなことが発見しづらい。外に目が向いてしまう」と旅に出た主人公の心情を説明。しかし大切なことは日常の中に、当たり前の場所にあるんだということを、再発見する物語だと松浦さんは解説した。

泣きごとは言わない

 イベントでは望月さんが『ちいさこべえ』の時代設定を変えた理由や取材秘話、ヤマシュウと同じ神奈川で過ごした子供の頃の話、松浦さんが親族をなくした際の男泣きについてなど、ここでしか語られないエピソードが続々と飛び出した。最後に二人はヤマシュウの美学になぞらえ、メッセージを語った。

望月「自分のように生きづらい人も、ダメなやつもヤマシュウの登場人物には出てくる。それでも頑張って生きるという気概を持ってほしい」

松浦「『泣きごとは言わない』というヤマシュウの言葉がある。生きづらい時代、思うままに行かないことばかり。それでも泣きごとを言わずに踏ん張って、自分を信じて生きてゆくしかない」

 二人はそう語り、会場は盛大な拍手に包まれた。

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