「かぐや姫」が勝った「大塚WARS」 続編タイトルは「親父の逆襲」
「親子がケンカしている店で誰が家具を買うのか」。株主が指摘した通り、大塚家具の行く末には暗雲が垂れ込めている。父と長女は株主総会においても激しく争い、一旦は長女側に軍配が上がった。が、勝利した「かぐや姫」の前には依然として「親父の壁」が……。
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〈「兄さん、お父さんと争うなんて無駄なことですよ、企業家としての識見、財力、社会的地位、すべての点で何一つ、僕たちはお父さんにかなうものがない、だから勝ちっこありませんよ」〉
銀行の頭取を総帥とする一大コンツェルンの内実を、重厚な筆致で描いた山崎豊子の『華麗なる一族』。この名作を貫く“背骨”の役割を果たしているのが、父・万俵大介と長男・鉄平の「相克」である。冒頭で引用したのはある時、弟の銀平が放つセリフで、対する兄の鉄平はこう述べるのだ。
〈「勝ちっこないか、あるか、僕はとにかくやってみる、これ以上、お父さんには頼みません」〉
同作では家族それぞれが抱える秘密や愛憎が描かれ、物語を重層的なものにしているが、こちらの「一族」の事情も複雑極まる。
“公開親子ゲンカ”を繰り広げて世間を唖然とさせている大塚家具創業者の大塚勝久氏(71)と、勝久氏の長女で同社社長の久美子氏(47)。勝久氏側には千代子夫人と長男の勝之氏、久美子氏側には二女の舞子氏、三女の佐野智子氏、二男の雅之氏がついており、目下、戦いを優勢に進めているのは久美子氏側だ。とはいえ現状はあくまで「優勢」に過ぎず、今後、勝久氏側の逆襲が予想されるのだが、それについては後述するとして、まずは家族が真っ二つに分かれて激しい応酬を展開した株主総会の様子に触れておきたい。
3月27日、東京・有明にある東京ファッションタウンビル。午前10時、定刻通りに始まった株主総会は、久美子氏が淡々と決算の説明をするなど、つつがなく進行していった。会場が不穏な空気に包まれたのは、開始から約30分後。マイクの前に立った勝久氏がこう述べたのだ。
「クーデターによって1月28日、社長の座を奪われた大塚でございます」
勝久氏が大塚家具を立ち上げたのは1969年。2009年、勝久氏は会長に退き、後任の社長に選ばれたのが久美子氏だった。しかしその5年後の14年、勝久氏は久美子氏を解任して社長の座に返り咲く。さらに今年1月28日、今度は久美子氏が社長の座を奪還したのだが、それを勝久氏は「クーデター」と表現したのだ。これに対して久美子氏は、
「少し不穏当な表現があったが、そのようなことはありません」
と冷静にいさめていたが、その後も感情的になる勝久氏を、久美子氏が無表情のままやり過ごす、という場面が度々見られた。例えば、次のようなやり取りだ。
勝久氏「復活は私しかできないと思っています。久美子じゃできない。(中略)これからやることいっぱいあるんですから! あなたは大塚家具を守ろうという気がないじゃないですか!」
久美子氏「貴重なご意見ありがとうございました」
感情的といえば、途中、マイクの前に立った久美子氏の母、千代子氏も自身の感情をコントロールできないようだった。感情ばかりが先走って要領を得ない話を千代子氏が続けると、
「見苦しい!」
「恥を知れ!」
そんなヤジが会場のそこここから飛んだのだ。
株主総会の場でも繰り広げられた前代未聞の「親子ゲンカ」――。その諍(いさか)いに「裁定」が下されたのは、総会が始まってから約3時間が経過した午後1時過ぎだった。可決されたのは、久美子氏ら10人を取締役とする会社提案。これにより、勝久氏と長男の勝之氏は会社を去ることになった。久美子氏支持が約61%に達したのに対して、勝久氏支持は約36%だった。
総会終了後、記者会見に臨んだ久美子氏は、
「総会後はノーサイド。信頼回復に努めたい」
そう述べていたが、家具業界関係者によれば、
「今回の騒動で傷ついたブランドイメージを復活させるのは至難の業です。また、久美子さんは元々は銀行員で、家具屋の商売が分かっていない部分がある。先行きは不透明だと言わざるをえない」
■「逆転も可能」
さらに久美子氏にとって頭が痛いのは、総会後も、勝久氏が大塚家具の株式の約2割を握る筆頭株主であることに変わりがないという事実であろう。しかも、
「勝久は総会の後、周囲に“会社や社員を救うために何らかの方策を考えないといけない”と話しています。彼には、“ノーサイド”にするつもりは全くない」
と、大塚家具関係者は明かすのだ。
「今後も会社の経営権を久美子から取り戻すために動くでしょう。また、彼は、現状の持ち株比率でもかなりの影響力がありますが、今後の展開によってはさらに影響力が増す可能性があるのです」
“今後の展開”を占う上で焦点となるのは、大塚家の資産管理会社「ききょう企画」が所有する大塚家具株を巡る裁判である。勝久氏が、自身が所有していた大塚家具株130万株をききょう企画に譲渡したのは08年。ききょう企画には資産がなかったため、15億円分の社債を発行し、勝久氏が引き受けるという形になったが、この株の譲渡により、ききょう企画は大塚家具株の約10%を握る大株主となった。ところが社債の償還期限の13年4月を過ぎても償還は実行されず、勝久氏が15億円の支払いを求めてききょう企画を訴えたというのがこれまでの流れだが、
「この裁判の判決が半年以内に出ると言われています。勝久が勝訴し、15億円の支払い命令が出て、久美子側がそれを払えない場合、所有株式による代物弁済という方法を取らざるをえなくなるかもしれない」(同)
無論、久美子氏としても持ち株を守るための「保険」はかけており、
「久美子はききょう企画が所有する株式について譲渡担保契約を設定している。この契約が有効であれば、株式を担保に借金をして勝久に金を返すことができますが、勝久は契約の無効を訴える裁判も起こしている。この裁判にも勝久が勝つと、代物弁済の可能性はさらに高まります」
と、大塚家具関係者が続けて語る。
「株主総会では、久美子支持が61%で勝久支持は36%だった。今後、久美子側が代物弁済せざるをえなくなり、10%の株が勝久に戻るとすると、久美子51%、勝久46%になる。さらに株を買い増せば逆転も可能な数字です」
冒頭で引用した『華麗なる一族』で、父との「争い」にある意味では敗れた長男の鉄平が、壮絶な最期を遂げる場面はあまりにも有名だ。果たして、「第二幕」に突入した大塚家具の「父娘対決」はいかなる結末を迎えることになるのか。
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