日本の貧困と格差(中篇) 「『貧困の連鎖』から抜け出せない『子どもたち』」――亀山早苗(ノンフィクション作家)

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DVが絡んでいる

 もちろん、シングルマザーは以前からいるが、昔は今よりも、彼女たちを社会が支えていた。

「離婚した母親には、給食の調理員とか学校の用務員とかの仕事があったものです。社会がどんどん効率化され、そういう仕事がなくなってしまったんですね」(阿部さん)

 バブル直後に離婚が増加したとき、シングルマザーを積極的に採用する企業もあった。理由は「シングルマザーのほうが若い女性より一生懸命に働くから」だった。以前はそういう立場の女性を応援する社会の許容度が、今より高かったと思われる。しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長の赤石千衣子さんも言う。

「シングルマザーの7割が、生活が苦しいと言っている。母子家庭の半数が貯金50万円以下という状態。年金や健康保険に未加入の人も1割います」

 さらには、約8割が電気やガスを止められた経験があるというデータもあるが、どうしてそれほど生活が苦しくなるのか。親元へ帰ればいいじゃないか。我慢して離婚しなければよかったじゃないか。そう思った読者諸氏、実は、多くにDVが絡んでいるのだ。子どもがいて生活の見通しもたたないのに、単なる女性たちのわがままで離婚するケースは少数だといっていい。

 北関東に住むヨリコさん(35)=仮名=は、26歳のとき2歳年上の男性と同棲。すぐに妊娠して結婚した。

「優しかった夫が、気に入らないことがあると目の前でモノを壊したりするようになったんです。私が友人と連絡をとるのも嫌がって、携帯電話のメモリを全部消されたことも。最初に暴力をふるわれたのは些細な口げんかからでしたが、その後、なし崩しに殴ったり蹴ったりするようになった。一度はお腹を蹴られて流産しかかりました」

 彼女はある国家資格をもって働いていたが、流産の危機で入院。仕事も辞めざるを得なくなった。入院中に、夫が家にデリヘル嬢を連れ込んでいたこともわかったが、それでも「子どもが生まれれば変わってくれる」と信じていたという。

 だが、息子が生まれても夫はまったく世話をしない。あげく借金が発覚。それでも夫のギャンブルや浮気は止まらない。同時に暴力は加速し、ヨリコさんは常に全身打撲の状態だった。

「子どもを検診に連れていったとき、困っていることはないかと役所の方に聞かれ、夫に暴力をふるわれると話したんです。そこでDVについて教わってやっと、それがいけないことだとわかりました。姑に相談しても『夫に暴力をふるわれるのは嫁がいけないから』と言われ、私の我慢が足りないんだと思っていた」

 あとから、実は姑も舅から暴力をふるわれていたことを知った。それを見て育った夫は、女は力でねじ伏せればいいと思い込んでいたのだろう。

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