集落は× 別荘地は◎ 田舎暮らしの新しい提案――清泉亮(ノンフィクションライター)
■長く楽しめる桜
続いて、移住者がはまりがちな落とし穴を指摘したい。それは、再び都会に戻らねばならぬ日が来るという事実だ。
集落では、何をするにもクルマは欠かせない。それが歳を重ねて運転できなくなり、独り身ともなれば、生活が成立しないのは自明のこと。
「そうなったら、都会のマンションがいいんです。病院も買い物も歩いて済ますっていうのは、都会でしかできないんですから」
と、かねてより移住相談に乗ってきたコーディネーターが次のように解説する。
「まだ若いときに田舎暮らしをして、介護が必要になったら都会に戻る。これが理想ではないでしょうか。地方では、クルマを自分で運転するか、運転できる身内がいなければ暮らせない。退職金で別荘を建てても、売りに出して再び都心へ戻っていく方は結構いますよ」
そんな時に物を言うのが、田舎暮らしのために購入した家の資産価値だ。裏返せば、それが人生最後の生活の質を決める鍵である。
「この点でいうと、八ヶ岳の物件は、値崩れしにくいのが特徴です。築10年くらいの中古物件でも、状態次第では2000万~3000万円台、多少悪くても売り出しで1500万円は下らない物件も多い。ノルウェーの木材を使うなど、建材そのものが良いのもあります。おまけに、中央線でも高速バスでも、わずか数千円で新宿まで出られる。その足の良さも魅力なんです。ある意味、通勤圏内とも言えますから。そして何より特筆すべきは、八ヶ岳南麓の地下岩盤がとにかく硬く、地震にも強いこと。先の大震災の際、築40年近い家でもびくともしなかった。だから、震災以降、この地域の人気は一段と高まっています」(同)
確かに、私の別荘もこれまで何度か地震に見舞われているが、その際の体感震度は、発表された数値よりもぐっと小さいものだった。
それでは、地元住民に八ヶ岳南麓という別荘地の美点を聞いて、総括としよう。
「この地域の最大の魅力は春です。桜なんです。標高が低いところから高いところまで、徐々に桜前線が上昇して、開花していきます。3月から、ともすると5月の終わりまで、2カ月以上も桜が楽しめるんです。冬が長いような印象がありますけどね。実は春を、桜を“なが~く”楽しめるのが隠れた魅力なんですよ」
他ならぬ私も昨年、「ワンツースリー」を背景にした桜を満喫した。移住2年目の今年は、白樺の横に植えたヤマザクラの開花が、何よりも待ち遠しい。
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