集落は× 別荘地は◎ 田舎暮らしの新しい提案――清泉亮(ノンフィクションライター)

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■老いらくの恋はここに

 とまれかくまれ、移住してほどなく、あることに気付いた。それは意外にも単身者が多いこと。そして、冬場は灯油の買い出しから薪割り、春は花壇や菜園作りと、さまざまな局面で男女がペアとなり協力し合う。そうこうするうちに、あっちもこっちも通い婚状態となっていく。老いらくの恋は、特養やデイサービスのみならず、別荘地にもあったのだ。

 かたや愛犬を伴侶とし、長らく男とは距離ある生活を送ってきた女性。こなた「女房は表参道や伊勢丹新宿店での買い物が何よりの楽しみだから、都会を離れない。娘はコンビニのないところには来ない」と漏らす、別居同然の初老男性。そんな2人が、笑顔で語らいながら仲睦まじく犬のリードを引く姿は、おしどり夫婦そのもの。従来の「パートナーそろっての老後移住生活」という固定観念をあっさり覆してくれる。

 煎じ詰めると、都会に生きた人間は、結局のところ孤独に耐えられず、人恋しいものなのだ。

 そこへ行くと長野の集落では、どんな場面でも「男女、席を同じうせず」が徹底していた。だから、“老いて後の恋”など成就しそうもない。ともするとそれは、「都会性」や「匿名性」を包摂する別荘地の特権と言えよう。

 それに引き替え、匿名性など皆無で何でも筒抜けの集落では、ゴミ捨てもひと苦労である。ゴミ袋には記名が必須で、場合によっては班長に中身まで調べられて“教育的指導”を受けることも。ゴミ袋は完全に透明だから、ちょっと恥ずかしいものは、やむなく直近のコンビニまで運ぶことになる。片道10キロの“長旅”ずら。

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