クリミア訪問「鳩山由紀夫」元総理への大ブーイング――「猪瀬直樹」前都知事に徳洲会マネーを斡旋した大物右翼を伴って……

国内 政治

  • ブックマーク

 ウクライナで大砲の撃ち合いをしている真最中に“火元”のクリミアに出かけたのもビックリだが、その鳩山由紀夫氏(68)の横に、あの「大物右翼」がいたことも驚きである。猪瀬直樹前都知事を事件に巻き込んだ張本人を連れた鳩山氏の「クリミア道中」やいかに。

 ***

 ご本人は「ハト」のつもりで飛んで行ったのだろうが、ロシアの側からすれば間違いなく「カモ」である。しかも、隣には「タカ」が爛々と目を光らせたりしているから、話はややこしいのだ。

 鳩山由紀夫元総理がこれまで繰り返してきた“宇宙人的言動”は、改めて説明する必要もあるまい。だが、3月9日から強行したクリミア共和国訪問は、さすがに驚いた人も多いはずだ。何しろ、クリミアが昨年ロシアに併合されたことに端を発して、ウクライナでは内戦が勃発。西側諸国がこぞってロシアを非難し、G7などによる制裁が行われている真最中である。にもかかわらず、ロシアから発給されたビザで現地に入った鳩山氏は、ロシア政府が泣いて喜ぶような応援演説をぶって回ったのだ。

「多くの日本国民は間違った情報で洗脳されてしまっている」

「クリミアがロシアの一部に戻ったことは、必然かつ肯定されることで、昨年の(ロシア編入の)決定の正しさを証明している」

 これを、プーチンの側近といわれるナルイシキン下院議長やモルグロフ外務次官が大歓迎したのはご存じのとおり。さらに鳩山氏は“美人すぎる検事総長”で有名なポクロンスカヤ女史とも会って、彼女を会長にした「日本クリミア友好協会」設立で合意するというオマケの一幕もあった。

 だが、当然のことながら、いくら宇宙人でも度が過ぎると、日本政府からも、そして古巣の民主党からも批判の声が上がる。

 大手紙のモスクワ特派員が言う。

「鳩山氏の訪問には官邸サイドは怒りを通り越して呆れるばかりです。菅官房長官も“何を考えているのか”と困惑していましたが、それもそのはず。もし、クリミアで行われた住民投票を北方領土でやられたら、日本としては非常に困るからです。日本政府の元首脳が不法な占領を追認することにもなる。政府はロシア制裁に同調しつつも、北方領土返還交渉を念頭に置いて慎重姿勢で臨んできたのですが、鳩山氏の訪問は、それをぶち壊しかねないインパクトがあった」

 沖縄の基地移転問題では発言を二転三転させた末に放り出した鳩山氏が、今度は北方領土問題までかき回すのか、と警戒されるのも無理はない。

 それにしても、唐突な感じが否めないのは、このタイミングでのクリミア入りである。祖父・鳩山一郎氏が親ソ派の政治家だったとはいえ、いま、鳩山氏が首を突っ込まなくてはならない問題ではないはず。だが、そのカギを握る人物が、現地の記者会見で鳩山氏の隣にいた、右翼団体「一水会」代表の木村三浩氏(58)だったことをご存知だろうか。

■きっかけは鳩山氏の「尖閣発言」

 木村氏といえば、かつて尖閣諸島・魚釣島に上陸し、灯台を建設した「日本青年社」の決死隊のメンバーでもあった人物。のちに、「統一戦線義勇軍」を立ち上げ、一水会に加わる。

「木村さんの主張はとにかく反米自主独立。それもあって、アメリカと対立していたイラクのフセイン政権と親交を結び、イラク戦争のときも一貫して空爆に反対していました。フセインが処刑されると、翌月には東京で追悼会を開いたほどです。また、アメリカと一線を引くロシアにも接近し、プーチン大統領と近い人物らとの間にパイプを築いてきました」(右翼団体関係者)

 だが、その一方で金絡みの事件で名前が取り沙汰されたこともあった。3年前、猪瀬直樹氏が都知事選出馬に際し、徳洲会から5000万円を借りていたことが発覚したが、木村氏はその仲介をし、猪瀬氏から500万円をキックバックしてもらった(註・本人は借りたと主張)ことも後に明るみに出ている。

 一方、鳩山氏といえば、ご承知のとおり、たびたび、中国に迎合する発言をしてきた人物。2013年6月には、香港のフェニックステレビのインタビューに答え「(尖閣諸島は)中国側からすれば盗んだという主張はあり得るだろう」と語って物議をかもしたこともある。

 領土問題では、どうみても、「水」と「油」なのだが、2人を結びつけたのは、意外なことに“尖閣発言”がきっかけだった。

「フェニックステレビでの発言に怒った木村氏が鳩山氏の事務所に乗り込んで激論を交わしたことがあったのです。鳩山氏も負けじと反論していましたが、沖縄の基地問題については“最低でも県外”という点で一致した。それ以来、木村氏が一水会主催の講演会に鳩山氏を呼ぶなど、2人は急接近していったのです」(同)

 最近の鳩山氏は木村氏に全幅の信頼を置いているといわれ、そこからクリミアヘの訪問につながったわけだ。

 鳩山氏の知人によれば、

「今回、クリミアを訪問したメンバーは、鳩山さんと木村さん、そしてジャーナリストの高野孟さんなど合計5名です(高野氏は鳩山氏主宰のシンクタンクの理事)。その中でも木村さんは昨年8月、9月にも2度クリミア入りしている。彼は今までロシアには二十数回渡航しており、向こうの政府の信頼もあつい。そして、昨年のクリミア訪問では、同行者の1人が鳩山さんに親書を書いてもらうようお願いしていたのです。その親書を、クリミアの管区大統領全権代表に届けたところ、今度は鳩山さんを招待したいという返書が戻ってきた。鳩山さんのクリミア訪問は、これに応える形で行われたものなのです」

 昨年11月にインターネットの動画で流された映像でも、このエピソードが紹介されている。鳩山氏、木村氏、高野氏の3人による対談の中でクリミアからの招待を明かしているのだ。

木村:クリミアのオレグ・ベラベンツェフさんという方にもお会いしまして、鳩山先生についても、一緒に行った仲間がですね、鳩山先生からの親書を頂きまして、ベラベンツェフさんにお渡ししました。すごく感激されていて、帰りにべラベンツェフさんから鳩山先生に一度来てもらいたいと。もし、お時間があればクリミアは大歓迎します、と返書を頂いていますからね。次は行って頂けるんではないかと〉

鳩山:最初のときもね、一緒に行きませんかと誘って頂いてね。行きたかったんですけど、タイミングを逃してしまったので。ぜひ次は行きたいなと思います〉

 それが、どんな事態に発展するか予想していなかったのだろうか。この誘いに乗ってしまった鳩山氏に苦言を呈するのは政治評論家の屋山太郎氏だ。

「そもそもクリミアはタタール人が住んでいたところをスターリンが追放してロシア人を入植させた歴史があるのです。鳩山氏はロシアによる“民主的編入”と評価していますが、住民投票だってロシア軍が現地を掌握した状態で行われている。そのことを分かって訪問したのでしょうか。少なくともウクライナをはじめとする西側諸国はインチキだとして認めていません。木村三浩氏が同行したことだって、鳩山氏をスポンサーにしようとしているように見えてしまう」

■「イスラム国」と交渉

 たしかに、そのくらいの金はポンと出せるほど鳩山氏は大の資産家である。

「鳩山氏は、母親・安子さんから相続したブリヂストン株や、東京都文京区にある『鳩山会館』、それに祖父の石橋正二郎氏から生前贈与された遺産など、合わせると300億円近い資産を持っていると見られています」(政治部記者)

 今回、木村氏は、鳩山氏とロシアで別れたあとヨルダンに入り、今度は「イスラム国」に殺害された後藤健二さん、湯川遥菜さんの遺体の引き取り交渉に臨んでいるという。だが、彼の行動には右翼の世界からもブーイングが起きている。

「木村さんには当塾の相談役をやってもらっていますがクリミア訪問の相談はありませんでした。そもそも鳩山氏は、尖閣諸島を中国のものだと発言し領土を危うくしてきた人物。それが、今回の訪問で、またもや北方領土を危険にさらした。そんな人物と手を組む木村さんは何を考えているのか。我々としては、すでに、除名処分にすることに決定しています」(右翼団体・正氣塾の若島和美副長)

 片や一足先に戻ってきた鳩山氏は、空港で記者を振り切り3月16日のインターネット動画「UIチャンネル」に出演するだけに終わっている。

 そこで、鳩山事務所に聞くと、

「クリミアはあくまで中立的な立場で訪問しています。詳しくはUIチャンネルを見てください」(同行した秘書)

 木村氏が代表をつとめる一水会に連絡すると、「多忙で対応できない」とのことだった。

 精神科医の片田珠美氏が言うのだ。

「鳩山さんの行動を見ていると小泉純一郎さんのように“スポットライト症候群”の特徴が指摘できます。かつて脚光を浴びていた人が、その感覚を忘れられず再び注目を浴びる行動に出てしまうことですが、鳩山さんの場合、加えて“カイン・コンプレックス”もあるかも知れません。これは“カインとアベルの物語”から来る言葉なのですが、兄が弟に嫉妬し葛藤を起こしてしまうのです。自分が引退したのに、弟が政権政党に所属して活動を続けている。そのような時には、ライバル心から弟とは真逆のことをやってしまう。鳩山さんも自民党に反逆するようなことをやっていますよね」

 クリミアでは、永住を勧められたという鳩山氏。この奔放な「宇宙人」を遠ざけておくにはロシアの端っこがちょうどいいかもしれない。

週刊新潮 3月26日花見月増大号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。