小説家・棋士になるのに大切な「正しい自由」とは 羽生名人×小説家・磯崎憲一郎さん
3月14日(土)東京神楽坂「la kagu」内レクチャースペース「soko」にて将棋棋士の羽生善治名人と芥川賞作家の磯崎憲一郎さんの対談が行われた。対談は磯崎さんの新作『電車道』刊行を記念して行われた。二人はプライベートでも交流があり、共通するのは無数にある一手、一文をどう見出してゆくのかという点。その選択の背景にあるもの、その思考をどう培ってきたのか、そしてそれぞれのジャンルへの思いが語られた貴重なイベントとなった。
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■電車の中での無駄な時間が大事
磯崎さんの新作『電車道』は近代日本の鉄道開発を背景とし、親子三代を中心に震災や戦争、経済に翻弄されながらも連綿と続く人の営みを描いた長編小説。奇しくもこの日は北陸新幹線開業の日。しかし磯崎さんは電車が速くなることへの葛藤を口にした。長い電車の中での時間は物思いにふけったり、人を観察して過ごすのにちょうどよかったと語る。現代は隙間時間に入り込んでくるスマートフォンや車内広告にぼんやりとする時間が奪われていると嘆いた。羽生さんもアイデアやクリエイティブなものが心に芽生えても、熟成されるまで待っている時間がなく、無駄なものが無駄なだけで終わってしまうことが多くなっていると同意した。
■羽生少年が道を踏み外した(!?)瞬間
羽生さんの奨励会の頃の電車にまつわるエピソードも語られた。対局が深夜に及び、翌朝の電車で家に帰ることになることがあったという。そのとき出勤のため都心に向かう方向に進むのが普通の人で、その逆に郊外に向かう電車に乗っている自分は、他の人とは違う“変な道”に入ってしまったということを、リアルに実感した瞬間だったと語った。
■「正しく自由」であることとは
また二人は、それぞれのジャンルで大切な「自由」についても語った。磯崎さんはいい小説を書くためには小説を崇拝しすぎてはいけないと語る。これまでの文学の流れを踏襲しながらも「正しく自由」であることが大事だと論を展開。羽生さんも上達してゆくには、自分に制約をかけてゆかなければならない、制約があるとそのなかで自分のスタイルが育つ。制約されたなかで「正しく自由」な発想が大事だと、二人に共通する考えを語った。
二人は「スランプからの脱出の仕方」や「将棋がコンピュータに解かれてしまうのではないか」といった観客からの鋭い質問にも気さくに答えるなどして交流を楽しんでいた。
この対談の詳しい模様は4月27日発売の雑誌「波」に掲載されます。
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