「スカイマーク」全株売却で「西久保前社長」の懐に残ったお金
無一文になり、尾羽打ち枯らした者、屈辱に耐えられず、自ら死を選んだ者、あるいは巧妙に資産を隠し、のうのうと生き抜いた者――。会社を破綻させたワンマン経営者の“その後”は様々だが、この人の場合はどうだろう。「スカイマーク」の西久保慎一・前社長(59)である。
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3月1日に上場廃止となった同社。1月28日に民事再生法の適用申請をしてから1カ月後の墜落劇である。その間、西久保氏は公の場から“雲隠れ”したままであったが、これを見て、
「そういう人なんですよ」
と呆れるのは、同社の元幹部である。
「2010年4月、国交省から業務改善勧告を受けた際、西久保さんは航空局長からお叱りを受けましたが、その後、局長室の前で待ち構えていた報道陣を押しのけ、脱兎のごとく階段を駆け降りていってしまったんです。今回も本来はここに至るまでの経緯を説明すべき人なのに逃げてしまった」
西久保氏は自らの持ち株を売ることに忙しかったのである。
破綻した1月28日の時点で、彼はスカイマーク株の約30%に当たる、約2800万株を保有していた。2月に入ると、4回に分け、そのすべてをせっせと売却していたのだ。この時期の同社の株価は10~44円。それぞれその日の高値で売れたとして約10億、安値でも約5億を手にしたことになる。濡れ手で粟となったワケだが、例えば、JALの株が会社更生法申請後、1円まで下がったのは記憶に新しい。なぜ今回の場合には、一定の値が付いたのか。
経済ジャーナリストの山口義正氏は言う。
「破綻したものの、スカイマークには、スポンサーとして名乗りを上げる企業が相次ぎ、自己資本比率も50%近くと破綻会社にしては高かった。そこで、今安い値段で買っておけば、再生し、再上場を果たした暁には大儲けできる、と考えた投資家が購入していったのでしょう」
こうした市場の思惑によって、前社長は思わぬ「退職金」を手にしたのである。
■株は紙切れに
西久保氏が、創業したソフト開発会社の上場利益を元手にスカイマークの増資に応じたのは、03年のこと。社長に就任し、その後の2回の第三者割当増資にも私財を投じて株の保有比率は約50%に。つぎ込んだ額は約75億円に上った。
その後、株の一部を売って約18億円、配当でも約8億円を得る。破綻直前には、運転資金として会社に7億円の貸付をしたが、完済されるかどうかは、不透明。これに2月の売却総額を合わせれば、公の書類上、彼の懐には約24億~29億円が入っていると推測される。
再び、山口氏の解説。
「75億円を投じてこの結果ですから、かなりの損失と言えるでしょう。しかし、一方で、手元に大きな金は残った。事業意欲が旺盛な人と聞くので、これを元手にまた事業を始めるかもしれません。ただ、スカイマークは今後、債務超過と認定される可能性が高く、そうなると、現在の株は100%減資、つまり、紙切れになることになる」
西久保氏に取材を申し込んだが、回答はなし。しかし、夢を見て彼の株を買った投資家からは、怨嗟の声が上がること、確実である。