川崎中1殺害事件・18歳少年の「反省」は信じていいのか

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被害者よりも親を気にする

「迷惑をかけた人リスト」を作ることからも分かるように、鑑別所に入所した少年は反省しているものだという思い込みがあることが感じられます。同時に、後の研究の結果をみると被害者に対して反省しているのは当然と考えていることもうかがわれます。

 ちなみに、この研究で用いているロールレタリングとは、架空の形で「私から相手へ」の手紙を書いたり、ときには「相手から自分へ」の手紙を書いたりすることによって、自己・他者理解を図る心理技法です。

 研究結果をみると、「迷惑をかけた人リスト」の上位に被害者を記した者は少なく、「予想外であったが約8割の少年は、被害者よりも父母や友人を上位に挙げている」と記されています。

 当然の結果です。

 親や友人に対して「格好悪い」「今度会うときは、どんな顔をして会えばいいのだろうか」「また親を悲しませることをしてしまった」などと考えるのが審判前の彼らの本音です。被害者のことまで考えられるのは、ずっと先なのです。

少年院入院歴者は「反省上手」

 この実験の研究者は、「少年院で教育を受けた少年とそうでない少年のロールレタリングを比べると、前者のロールレタリングは文章としての水準、被害者への関心のいずれも高い」と述べ、少年院入院歴のある者の方が「被害者に迷惑をかけたことをすぐに自覚できるのであろう」と指摘しています。

「見当違いもはなはだしい」と言わないではいられません。

 少年院入院歴のある者は、何度も少年院で指導を受けているので、皮肉なことに「反省文」を書くことに慣れている場合が多いのです。読み手が評価する文章を心得ている少年もいます。

 鑑別所に入った者は反省しているのは当たり前と考えたい気持ちは分かりますが、事実は異なるのです。

誰でもわが身が可愛い

 たとえば、仮に私たちが犯罪を起こしたとして、鑑別所か拘置所に入ったときの自分自身の気持ちを想像してみてください。悪いことをしたことは認めるとしても、被害者のことを考えるよりも、自分自身のことを考えることで必死なのではないでしょうか。

 自分の刑が軽くなるために、裁判でどのように話そうか、どう言えば裁判員によい印象を与えられるだろうか、といったことを常に考え、弁護士といっしょに対策を懸命に考えるのではないでしょうか。

 施設に入るのか家庭に戻されることを許可されるのか、重大事件を起こした場合には死刑なのか無期懲役になるのか、悪いことをしたとはいえ、自分の「人生」が決まるわけですから、被害者のことよりも自分自身のことを優先するのは、人間の心理として自然な流れなのです。

 幼少の頃のことを思い出してください。親が怒るような悪いことをしたとき、できるだけ親から叱られないようにするため、どうすればいいか悩んだことはないでしょうか。

 もちろん親から叱られるような些細なことと犯罪とは比べられませんが、人間の心理としてはつながっています。

罰はできるだけ受けたくない。受けるとしても罰はできるだけ軽いものであってほしい。それは人間の本能なのです。

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 身もふたもない話だと思われた方もいることだろう。しかし、長年刑務所で累犯受刑者の更生支援に関わってきた経験がある著者の言葉には重みがあるのも確かである。

※矢ヶ崎道人・小野陽子・尾崎知世「意図的行動観察:ロールレタリングを通してみた被害者に対する少年の認知について」『矯正教育研究』第55巻

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