北アフリカにも魔手を拡げる「イスラム国」

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 黒装束の男に連れられて浜辺を歩いていく、21名の人質たち。オレンジ色の服を着た彼らは、うつぶせの格好で一人残さず斬首され、海が赤い血で染まる――。

 2月15日、過激派組織・イスラム国がネット上に公開した映像は、このようなものだった。手の込んだ編集はジャーナリストの後藤健二さんら、過去の人質の殺害ビデオとも重なるが、大きく異なることが一点。

「今回の映像はイスラム国の拠点であるシリアやイラクではなく、リビア北西部のトリポリで撮られたものだったのです」(外信部記者)

 殺された人質たちは、いずれもエジプト人のコプト教徒。隣国のリビアへ出稼ぎに来ていたところを、拘束されたと見られている。

「他にもリビアでは、2月20日に東部の都市クバで3件の爆弾テロが発生し、40人が死亡するなど、イスラム国に忠誠を誓う武装組織の活動が激化しています」(同)

 確かにイスラム国の指導者バグダディ師は、昨年11月にリビアヘの勢力拡大を宣言していた。とはいえ、シリアやイラクとは地中海を隔てている。さすがに伝播が早すぎはしないか。

「いや、ここ数年のリビアの国内情勢を見れば、何ら驚くことではありません」

 と語るのは、東京外国語大学の飯塚正人教授である。

「2011年、リビアでは反政府デモを発端とする武装闘争が起き、42年もの問政権を握ったカダフィ大佐が退陣します。その過程では米英仏などが反体制派に肩入れし、武器が一般市民にも行き渡りました」

 が、革命が成就したあと、欧米諸国は武装解除を行うことなく引き揚げてしまう。

「思うに、欧米の早期撤退が過ちでした。昨年の暫定議会選後に世俗派とイスラム派が対立し、前者は東部、後者は西部でそれぞれ政権を打ち立ててしまった。現在、国内は泥沼の内戦状態となっています」(同)

 この混乱に乗じる形で、イスラム国に共鳴する勢力が台頭してきたのだ。無論、武器はすぐ手に入るため、テロを起こすのは容易(たやす)い。

「欧米が介入しようにも、カダフィのような良かれ悪しかれ強力な政治家が不在で、どちらの政府と話をすればよいのか分からない」(同)

“アラブの春”が生み出した魔物か――。

週刊新潮 2015年3月5日号掲載

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