棺桶に体験入棺してみたら大変だった

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 いざという時には慌ててしまうのがわかっている。それでもきちんと準備するのに抵抗があるのが、身内の「お墓とお葬式」だろう。

 父親の死期が近いことを知って、複数の葬儀社から相見積りを取ったところ、きょうだいから「冷血人間」と猛烈に非難された――そんな話を知人から聞いたライターの神舘和典氏は、両親が健在なうちに準備をしておこうと考えて、取材を始めた。そのほうが故人ときちんとお別れする心と時間の余裕が持てるだろうと思ったのだ。

 その取材の成果を一冊にまとめたのが『墓と葬式の見積りをとってみた』。同書には、著者自ら「棺桶に入ってみた」という体当たり取材の様子も描かれている。その貴重な体験レポートを以下に紹介してみよう。

 ある時、神舘氏が葬儀社や石材店など葬祭関連企業が合同で行う「終活フェスタ」に行ってみたところ、棺会社による「入棺体験コーナー」が設けられていた。生きているうちに棺桶に入るチャンスはめったにあるまい、と考えた神舘氏はその場で志願する。

 そこにあったのは、男性用と女性用、二種類の棺。とりあえず男性用に入ってみることにした。男性用は縦の長さに問題はなかったが、横幅はやや窮屈だったという。

 しかし、スタッフの男性は、

「死ぬと体がやや縮まるので、ちょうどいいサイズだと思います」

 と言って、ふたを閉めた。

 すると、襲ってきたのは猛烈な暑さだったという。

 ふたをされた瞬間に体中から汗が噴き出した。これでは生きたまま腐乱してしまう。呼吸も苦しい……たまらなくなって、神舘氏は叫び声を上げた。

「すみませーん! 開けてくださあーい!」

 続いて女性用にも入ってみた。女性用は桐の本体に布張り。棺の中も光沢あるピンク色で、中に布団も敷かれていた。ふかふかで心地いい。

 しかし、こちらも当然暑い。たまらずすぐに叫んだ。

「開けてくださあーい! 僕を出してくださあーい!」

 実際に入棺してみて痛感したのは、ドライアイスの重要性だったという。エアコンが効いた会場内でも暑かったのだから、棺の中は常に暑くなる可能性が高い。

 暗くて狭くて猛烈に暑い。やはり生きているうちには入るものではない、と思うところだが、一部では「生前に入棺すると長生きできる」という言い伝えもあるという。もっとも、神舘氏がその場にいた葬儀社の職員に聞いたところ、「そういう言い伝えがあるのは本当ですが、私は入ったことはありません」という答えが返ってきたそうだ。

『墓と葬式の見積りをとってみた』には、「樹木葬ってどんなものか」「有名霊園に入るには」「良い葬儀社を見分ける10のポイント」等、実用的な情報も多く詰まっている。

デイリー新潮編集部

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