「ピケティ」来日も 『21世紀の資本』重要データに間違い発見
近頃、社会における「格差の拡大」を懸念する日本人は少なくない。トマ・ピケティ(43)の『21世紀の資本』(みすず書房)が、異例の売れ行きを見せている理由もここにある。この仏人経済学者、1月末に来日したそうだが、その折も折、重要データの間違いを指摘されていることを御存知か。
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日本語版が発売されたのは12月8日。700ページ以上もある学術書で、5940円という価格にもかかわらず、これまでに13万部を売り上げた。で、今回は、本の発売を記念し、ご本人を招いて講演やシンポジウムを開催したというのだ。
この難解な本の中身を、簡単に説明すると――。
ピケティの主張は極めてシンプル。各国で問題化している貧富の格差は、資本主義がもたらす必定で、このままでは格差拡大は止められないという。
「格差拡大は一般に貧困率の数字に基づいて議論されるが、彼は、フランスだけではなく諸外国の所得と資産の歴史を調査。大量のデータをもとに、格差の拡大を立証したことが評価されています」(経済紙記者)
解決策として、「グローバル資本税」の導入を提唱する。富める者の資本に累進課税的な重い税を課し、貧しき者に分配せよと説く。
■結論は変わらない
ところが、さるジャーナリストによれば、
「実は最近、アメリカでフィリップ・マグネスとロバート・マーフィーという2人の学者が、〈トマ・ピケティの『21世紀の資本』の中の実証主義的貢献を批判する〉という論文をまとめた。論文は、ネット上で閲覧でき、近く学術誌に掲載予定ですが、この中でデータの間違いが指摘されているのです」
具体的には、
「ピケティは、F・ルーズベルト大統領は、所得税の最高税率を1933年に63%に、37年に79%に引上げたと言う。しかし、32年に最高税率を63%に引上げることを承認したのはフーバー大統領。ルーズベルトは、36年にそれを79%に引上げている。また、ピケティはレーガン大統領とH・W・ブッシュ大統領が、連邦政府職員の最低賃金を一度も引上げなかったと嘆く一方、クリントン大統領が最低賃金を時給5・25ドルに引上げたと述べている。だが、実際は職員の最低賃金が5・25ドルだったことは一度もなく、ブッシュの下で2度も引上げられています」(同)
些細な誤りに見えるが、
「これらは、所得税の最高税率を80%にし、富裕層に5%のグローバル資本税を課すべしとの、ピケティが推奨する政策の支柱部分にある誤り。問題ないとは言えません」(同)
さらに、データの捏造疑惑もあるそうで、
「アメリカの税収は1902年以前のデータは存在しない。にも拘らず、彼が1870年から1900年の税収の推移を真っ直ぐな線で表すのはおかしい、と批判されています」(同)
この論文は、「同書の最大のウィークポイントは実証データの取扱いにある」と指摘する。
『21世紀の資本』の英語版が出たのは昨年4月。
「翌5月、英国の『フィナンシャル・タイムズ』が、まずこの本のデータに疑義があるとの記事を掲載。『エコノミスト』やBBC、『ニューヨーク・タイムズ』でも似たような報道が相次いだ。ただ当時、彼自身、『改善の余地はあるし、データの扱いに意見がある人も居るかもしれない。が、必要な変更は僅かなもので、広い意味での結論は変わらない』とコメントしています」(前出・ジャーナリスト)
霧島和孝・城西大教授は、
「日本に比べ欧米諸国は、発表された論文や本に対する議論や批判が非常に活発に行われます」
と指摘し、こう続ける。
「史実が間違っていたり、ツメが甘い本であることは事実です。ただ、学術界では、『ディスカッションペーパー』という考え方がある。色々と間違いを指摘してもらって研究に磨きをかけていくため、その経過を論文形式にまとめたもののことです。欧米では、この方法で論文を頻繁に改訂する。『21世紀の資本』も長い時間をかけて改訂していけばよい」
むしろ、
「海外のような論文に対する批判の応酬が日本にないのは寂しいことです。理由の大部分は、日本の権威主義的なところにある。『21世紀の資本』について言うと、08年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンが『この10年で、最も重要な経済学書になると言っても過言ではない』と絶賛。おかげで日本の経済学者は臆してしまったのです」
妄信的にピケティを崇め奉っていると、外国から笑い者にされることだろう。