イスラム国では兵士たちの集団脱走が始まっている!
イスラム国は、しばしばその牙を容赦なく“身内”にも向ける。実際に、逃走を試みた多数の外国人兵士を殺害したとも報じられているのだが、こうした事態は、足並みの乱れた実情を如実に物語っているという。
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全国紙外信部デスクの話。
「昨年末に英紙が、シリアのアサド政権とイスラム国の双方と対立関係にある活動家の話として、“イスラム国が、拠点のラッカから脱走を企てた外国人戦闘員100人を処刑”と報じました。米国主導の空爆で勢力拡大もままならず、長引く戦闘で士気が下がり、イラク人やシリア人ら地元の兵士との間で、仲間割れも生じているというのです」
これにとどまらず、
「地元の兵士、さらには年端のいかない子らを含む一般市民を、片っ端から手にかける殺戮集団と化しています。昨年6月の“建国宣言”以降、少なくともおよそ2000人が殺されていると見られています」(同)
軍事ジャーナリストで『イスラム国の正体』の著書もある黒井文太郎氏は、
「“士気や規律の低下”については、ロンドンの反イスラム国勢力が流している場合が多いのですが……」
そう前置きしながら、
「モスルを制圧した昨年6月頃の勢いがないのは事実でしよう。11月以降、幹部や指揮官クラスが次々と空爆で殺され、外国人兵士の中にスパイがいるのでは、と最高指導部が疑心暗鬼になっている面がある。恐怖政治の体制を維持するため、おかしな動きをした外国人を次々処刑しているという話は聞こえてきます」
空爆は油田も標的とされるため、
「思い通りに原油を生産できない状態に陥っており、じわじわと勢力が削がれているのは間違いありません」(同)
東京外国語大学の飯塚正人教授(イスラム学)も、こう指摘するのだ。
「世界から集った戦闘員は社会に不満があったり、勝ち馬に乗る魂胆があったはずですが、今や国際的な包囲網ができてしまいました」
加えて、パリのテロでは容疑者の“アラビア半島のアルカイダ”での訓練歴が報じられたように、
「この40年ほど、自国でテロを行う者がイスラム過激派組織で軍事訓練を受けるという“流れ”があります。もともと訓練に参加していた連中が、帰りたいと思った時にイスラム国は許さず、結果的に脱走になるケースも考えられます」(同)
が、情勢はなお不透明。“弱体化”とも言い切れない危うさを孕んでいる。