イスラム国の住民たちの証言 「法律」「通貨」「教育」「水道」「電気」

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 乾いた大地に血の雨が降り、侵奪に晒された街は修羅の巷と化す――。残虐な殺戮行為を繰り返し、恐怖で人々を統治するイスラム国。支配地域に暮らす人々は一体どんな生活を強いられているのか。法律や通貨、教育はどう変わったのか。地獄を生きる住民たちが明かした、狂気と暴力が渦巻く支配地の今。

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「日本人たちはなぜイスラム国の支配地域に足を踏み入れたのか。こうなることは分かっていたはずだ」

 昨年8月、イスラム国に完全制圧され、現在、同国の首都とされているシリア北部の街、ラッカ。その地で地下に潜って抵抗活動を行っている住民は、本誌の電話取材に、声を潜めてこう語った。

 フリージャーナリストの後藤健二さん(47)と会社経営者の湯川遥菜さん(42)が拘束され、日本でも俄かに関心が高まったイスラム国。昨年6月、最高指導者とされるバグダディ容疑者が突如、建国を宣言し、イラクとシリアで勢力を拡大している。両国土にまたがる“領土”は今やその3分の1に及ぶが、統治の実態はほとんど知られていない。本誌はその内実に迫るため、支配地域の住民やそこから逃れてきた難民などに電話取材を試みた。その数、のべ37人、時間にして21時間余り。電波状況は悪く、つながっても盗聴を恐れ、拒絶する者も少なくない。取材は困難を極めたが、インタビューを重ねることで、少しずつその実像が浮かび上がってきた。トップのバグダディの下には、シリア担当とイラク担当の副官がいる。

「副官に任命された県知事が支配地域に送り込まれ、治安や徴税などを担っています。大変なのは、イスラム国が独自に解釈したシャリーア(イスラム法)の厳格な運用が行われている点です。戒律が極端に厳しくなり、もちろん酒、タバコは厳禁。女性は、全身を覆い、目の部分だけが出る黒い服を着ることが義務付けられた。しかも1人で出歩くことすら禁止されました」

 と語るのは、ラッカの北西に位置するマンビジュの40代男性だ。夜7時以降は、男女を問わず外出禁止になったという。

■磔で公開処刑!

「ヒスバと呼ばれる宗教警察が一般市民を監視しています。街の周りには検問所が設置され、住民の出入りが厳しくチェックされている。警察官らが、車体にヒスバと書かれたトヨタのピックアップトラックに乗り込んで街中を巡回し、違反者がいないか目を光らせています。女性が少しでも肌を露出していると、その場ですぐムチ打ち100回の刑を食らう。飲酒や喫煙が見つかると、刑務所に入れられ、指を切られる場合もある。厳罰で住民に恐怖心を植え付け、支配していくのです」(同)

 役所や裁判所、警察署などの行政機関は従来の建物をそのまま使用し、職員だけがイスラム国の人間に代わっているという。もっとも浄水場や発電所は働くのに技術が必要で、元の職員がそのまま勤務している。こうしたライフラインは現在、どうなっているのか。さらに北部のジャラーブルスに住む男性はこう話す。

「ジャラーブルスやマンビジュの街は水源であるユーフラテス川が近いので、水道は24時間、不自由なく使えます。しかし電気の使用は、1日3~4時間に制限されている。毎日不安定で、使える時間帯もその日によって異なります」

 ラッカの住民によれば、

「羨ましい話で、ラッカでは電気ばかりか水道も1日3時間ほどしか使えません」

 教育も様変わりした。ロンドンに拠点を置くシリア人権監視団の職員の話。

「哲学や現代政治の授業が廃止されました。それに代わり、コーランを読み込む授業が増えている」

 先のラッカの住民も、

「語学はアラビア語だけで、歴史もイスラム史のみになった。自然科学系は、彼らが認めた範囲内のみ。役に立ちそうなエネルギーや資源に関する授業だけです」

 イスラム国は昨年11月、ディナールという金貨など、独自の新通貨も発表した。

「首都のラッカでは一部住民の問で流通が始まっているようですが、供給量が少ないことから、マンビジュなど他の街では全く見かけません。一般に使われているのは、以前からのシリア・ポンドと米ドルです」(マンビジュの住民)

 品不足で物価が上がり、生活に困窮する者も多い。

「そうした中で、朝目覚めると、必ず街中に死体が転がっている。イスラム国に抵抗した者は、磔にして市中に晒し、公開処刑で見せしめにします。住民は沈黙を守り、服従するしかない」(別のラッカの住民)

 支配地域の住民たちはいつ災禍がふりかかるやもしれぬ極限状態を生きていくしかないのである。

「特集 暗黒の支配地域に電話インタビュー! のべ37人に21時間15分! 『イスラム国』大全」より

週刊新潮 2015年2月5日号掲載

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