イスラム国がヨルダンに囚われている「女性死刑囚」の釈放を求めた理由
突如として事態打開のキーパーソンに躍り出たのは、1人の“女”だった。2005年、ヨルダンの首都アンマンで起こった連続爆破テロに関わり、同国で死刑判決を受けたサジダ・リシャウィ。「イスラム国」はなぜこの40代の女テロリストの釈放を要求したのか。
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〈彼らはもはや金は要求していない。だからテロリストに金を渡すことを心配する必要はない。彼らは、ただ獄中にある彼らの姉妹、サジダ・リシャウィの解放を求めているだけだ〉
やつれた顔で英語のメッセージを読み上げる人質の後藤健二さん。1月24日、この映像によって日本政府は「イスラム国」の要求が変更されたことを知った。2億ドル(約236億円)という法外な身代金の要求をいとも簡単に引っ込め、代わりにサジダ・リシャウィなる女の釈放を求めたのだ。
「サジダはイスラム国の前身である“イラクの聖戦アルカイダ組織”の首魁だったザルカウィの側近の親族とされています。夫婦でアンマンの爆破テロに関わり、夫は自爆。彼女は自爆を果たせずに逃亡して逮捕され、後に死刑判決を受けました」(外報部記者)
その彼女の釈放を求める理由について、
「女性の自爆テロ志願者は珍しい。彼女はそれを果たせなかったとはいえ、ヨルダンに囚われている間に徐々に神格化されていった。彼女には、象徴的な存在として利用価値があるということなのでしょう」
と語るのは、放送大学教授の高橋和夫氏。現代イスラム研究センターの宮田律氏もこう話す。
「彼女を引き取ることで、イスラム過激派やそれに呼応する人々を引き付けようという狙いがあると思う」
一方、こうした意見に首を傾げるのは、シリアでの取材経験がある報道カメラマンの横田徹氏で、
「彼女を象徴に据えてもイスラム国兵士の士気が上がるとは思えない。イスラム国内には様々な派閥が発生している。この派閥間で人質交渉の権限が移ったために、要求内容が変わった可能性があります」