大ブーム「株主優待」銘柄に踊らされるな!
日本では約3500社ある上場企業のうち、配当以外に自社製品や金券、サービスの利用券などを株主に贈る企業が約1100社もある。企業の多くが決算期を迎える3月に向け、新聞や雑誌の投資記事に「株主優待」の見出しが躍るが、この時期、優待目当ての銘柄選びは正解なのか。
消費財メーカーが自社製品を株主に贈れば、銀行は金利を上乗せし、外食チェーンは食事券を配る。多くの企業は現金と同じように使えるQUOカードやお米券、仕立券、スポーツ施設の利用券、割引券など様々な金券類のほか、中には宝くじまで優待の品として使う企業もある。
優待銘柄に効率よく投資して、日々の生活でほとんど現金を使わずに済むという御仁が、将棋棋士七段の桐谷広人さん(65)。“優待の達人”として多くのメディアから引っ張りだこだ。
「確かに株主優待は空前のブームですね」
と言うのは桐谷さん本人。
「日本株はバブル崩壊後に低迷しました。1990年代半ばにカゴメが株主優待を始めたら、7000人ぐらいだった株主が20万人に増えたのです。現金配当が3、4%の企業がある一方で、カゴメは株主優待と配当を合わせても利回りは2%。株主優待は個人株主を増やすには効果のある手段なんですよ」
■人の行く裏に道あり
「企業が夕方に株主優待を発表すると、翌日には株価が上がり、すぐにストップ高になります。反対に優待を止めれば、株価が下がってしまう。優待は株価形成に大きな力を持つようになったのです」(同)
個人投資家向けの雑誌などでは、配当と優待を合計した実質利回りを数値化して、優待銘柄を格付け。
例えば、牛丼の吉野家ホールディングス株を100株購入して2月末まで保有していれば、配当や株主優待を受けられる。株価は1月26日現在1310円で最低優待獲得額は13万1000円。年間2000円の配当のほか、3000円分の食事券が2回配られるから、優待と配当を合計すると年間8000円で、実質的な利回りは6・1%だ。
同様に外食大手のコロワイドの実質利回りを計算してみると4・4%。キティちゃんで有名なサンリオは10%ぐらいになる。
「3000万円を銀行の定期預金に預けても、年間1万円ぐらいの利息しか付きませんが、優待株に分散投資すれば、家賃を除いて生活できます」(同)
かくしてブームは過熱気味なのだが、株式評論家の植木靖男氏はこう語る。
「最近はだんだん優待の優遇度を競り合うようになっています。企業が自社の製品やサービスを優待の対象にするのはいいと思いますが、鉄鋼メーカーがお米を贈るなんてのは行き過ぎでしょう。本来あるべき企業の競争ではありません」
権利確定日の直前、優待銘柄の買いと信用売りを同時に、同じ株数だけ行なう個人投資家もいる。権利確定後に株価が下がる傾向があるけれど、信用売りをしておけば損を出さないで済むからだ。しかし優待券をタダ取りするマネは、健全な投資とは言えまい。
「僕は色紙に、『暴落はチャンス』と書きます」
とは桐谷さん。
「アベノミクスで株価も上がり、優待ブームでよく取材も受けますが、でもこういう時こそ、利が乗った株は売るべきで、買うべきではないのです。『人の行く裏に道あり花の山』という有名な株の格言があります。むしろ暴落があったら買おうと思って、資金を作っている時期なんですけどね」
踊らされて、高値づかみをすることなかれ。