「撤退するならカネをくれ」 チャイナハラスメントの恐ろしすぎる実態(3)
ビジネスの環境が劣悪だと判明したら、さっさと撤退すればよい。先進国において常識的な経済の論理で考えれば、当然そうなる。しかし、政治の論理が経済の論理に優先する中国では、撤退するのもそう簡単ではない。
『チャイナハラスメント 中国にむしられる日本企業』の著者、松原邦久氏によると、外国企業の中国からの撤退がスムースにいかないのには4つほど理由がある。
第一には、企業が撤退するのには認可機関の承認が必要であることだ。要するに、共産党が認めなければ、事業が赤字でも撤退することすらできない。撤退は、税収減と雇用の減少をもたらすので、地方政府の役人にとってはマイナスの実績となってしまい、昇進に響く。だから、時には難癖をつけてでも阻止しようとする。
第二に、合弁会社を解散する場合には、「董事会の全会一致の決議」が必要なことだ。
合弁会社の中国側出資者は、技術やノウハウ、さらには外国企業のブランドなど、多くのメリットを得ている。そのメリットを手放したくない中国側出資者は、合弁解消を阻止するために、あらゆる手立てを尽くしてくる。
第三に、2008年に制定された「中華人民共和国労働契約法」によって、労働者の権利が強化されたことだ。この法律によって、会社の解散にも労働者の賛成を得なければならなくなった。労働者の解雇も以前に比べて非常に難しくなった。
第四に、企業所得税の追納要求が発生することだ。中国政府は、外国企業が中国に設立した会社を解散する時には、それまでに受けた企業所得税の二免三減(利益が出た年から二年間は企業所得税免除、その後三年間は半額)の優遇を返還せよ、と要求する。すなわち、途中で撤退するなら、これまで優遇してやった分を返せ、というわけだ。
しかし、企業が撤退を検討するのは経営がうまくいっていないからであって、資金に余裕がないケースが普通だ。「優遇してやったカネは返せ」と言われても、無い袖は振れない。こうしてますます撤退が困難になるというわけだ。
当然のことながら、企業が中国に進出する際には優遇税制の話は強調しても、途中で撤退する場合に優遇分を返さなければならないことは説明しない。
企業の進出も撤退も、つまるところ共産党当局者の胸先三寸。自分のことを自分で決められないことが、中国ビジネスの最大のリスクである。
松原氏は、「もし中国からの撤退を本気で検討するなら、すべてを置いていく覚悟が必要。そうなった時のためにも、儲けが出た時には早めに本社への配当などで利益を回収し、中国への出先企業は身軽にしておいた方がよい」と言う。
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『チャイナハラスメント 中国にむしられる日本企業』では、改革開放以来30年の変遷を見てきたスズキの元中国代表が、中国でのビジネスで当たり前に見られる詐欺的な契約、デタラメな規制、企業間取引にも持ち込まれる「反日」などについて徹底解説。併せて中国でのビジネスに求められる「冷徹な戦略」についても詳述している。