ベストセラーでも読みこなせない 『21世紀の資本』ここが読み所

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 先の総選挙で「一人勝ち」した共産党。それでもたかが衆院で21議席に過ぎない、と侮(あなど)るなかれ。目下、マルクスの『資本論』を髣髴(ほうふつ)させるタイトルの本が人気を博しているのだ。その名も『21世紀の資本』。

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 同書は本文と索引等を合わせて700ページを超える大著にも拘(かかわ)らず、昨年12月8日にみすず書房から日本語版が発売されると、大手書店でキャンペーンが組まれるなど人気が沸騰。既に欧米ではベストセラーとなっていたが、日本でもアマゾンのランキングで全書籍中1位(1月3日時点)に輝いた。

 経済の専門書としては異例の注目を集めているこの本の特徴は、何と言っても資本主義の「構造的問題」に言及した点である。1971年生まれで現在、パリ経済学校教授のトマ・ピケティの手になる同書は、世界各国で問題化している貧富の格差は、資本主義がもたらす「必定」と解き明かすのだ。

「一般的には貧困率がよく使われますが、ピケティは長期間掛けて大量のデータを調査し、格差の拡大を立証しました。これは学問的に意義深いことです」

 と、城西大学教授の霧島和孝氏は解説する。

「そうした検証をもとにした彼の主張は極めてシンプルで、資本主義は富める者をますます富ませ、貧しい者をより貧しくする。だから、放っておいたら格差拡大は止められないというものです」

 例えばソフトバンクの孫正義社長は、

「中国のネット通販最大手『アリババ』に出資し、昨年、同社が米国で上場したことで兆円単位の含み益を得ました。一方、サラリーマンは年収1000万円が関の山で、生涯年収もせいぜい2億~3億円程度。リスクはあるものの、ネットをワンクリックして投資するだけのお金持ちは富むばかりで、汗水垂らして働く庶民は投資に回せる資産もなく、『儲けの世界』に参加できない。このようにして拡大していく格差を、ピケティは『r > g』という図式を使って解明しました」(同)

■グローバル資本税

「r」とは資本収益率で、「g」とは経済成長率。要は投資という「あぶく銭」を稼ぐほうが、地道に働いて所得を上げていくよりも効率的である以上、資本主義は必然的に格差を広げていく。しかも、それは今に始まったことではなく、資本主義とは、本来、「そういうもの」なのだという。

「格差は19世紀から20世紀初頭にかけて拡大し、2つの大戦期に一旦、縮小されました。しかし、これは各国が破壊され、同時に資産もあらかた消え去り、そもそも富める者がいなくなってしまった『異常事態』に過ぎなかった。そういった時期から復興すれば、また格差は拡大するだけだと、ピケティは分析しています」(経済記者)

 そして格差拡大を解決するための処方箋として、彼は「グローバル資本税」を提示する。全世界的に富める者の資本に累進課税的な重い税を課し、それを貧しき者に分配せよと説くのだ。『日本人のためのピケティ入門』の著者でアゴラ研究所所長の池田信夫氏は、そここそが『21世紀の資本』の読み所だと説明する。

「既にリヒテンシュタインやルクセンブルクヘのキャピタル・フライトが行われているように、資産家はタックス・ヘイブンに逃げていくだけ。よってピケティは、単に一国が資本税を導入するのではなく、国際的に連携したグローバル資本税の導入を提唱しています。彼自身もユートピア的な話であるとは分かっていますし、今すぐできるはずもない。しかし、ピケティは100年単位で考えているんです」

 他方、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は「ユートピア的」である以上に、グローバル資本税には怖さが潜んでいると指摘する。

「この税システムを実現化する場合、各国の主権を超え、軍隊を使ってでも徴税する『国際税務警察』のような組織が必要となってくるでしょう。強大な権力の誕生は極めて危険です」

 いずれにしても、ピケティが投じた一石は、隠されてきた格差の「正体」と向き合う契機になりそうだ。

「ワイド特集 めでたくもあり めでたくもなし」より

週刊新潮 2015年1月15日迎春増大号掲載

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