「留学生30万人」計画で日本の治安が悪くなる!――出井康博(ジャーナリスト)
■ベトナム人窃盗団
栃木県宇都宮市――。駅から10分ほど歩いた街道沿いに、大手人材派遣業者の事務所がある。12月初旬の夜11時半、気温がO度近くまで下がり、道を歩く人は少ない。そんななか、分厚いジャケットに毛糸の帽子をかぶった外国人の若者たちが自転車で集まってくる。その数は、あっと言う間に20人以上に膨れ上がった。
しばらくすると、彼らは業者が用意したバスに乗り込んでいく。30分ほど離れた工業団地にある化粧品関連の工場で、派遣労働に就くためだ。
仕事はベルトで流れてくる化粧品のラベル貼りや箱詰めといった単純作業だ。午前1時から9時まで途中1時間の休憩を挟み、立ちっぱなしでの仕事が続く。
「身体だけじゃなく、精神的にもきついんです。どんどん品物が流れてきて、頭がおかしくなりそうで」
ベトナムから来日して2年目、20代の女性のフーンさんは、日本語学校に午後通いながら週4日、この工場で働いている。
「(仕事をしているのは)半分くらいがベトナム人で、他にはネパール人やバングラデシュ人……。皆、日本語学校の留学生です。日本人はほとんどいません」
「資生堂」など日本製の化粧品は、ベトナムではユニクロと並ぶ人気がある。ユニクロと同様、日本での盗品がベトナムヘと運ばれるケースも多い。そんな化粧品の製造も、ベトナム人留学生が担っている。ベトナム人が日本で「盗品用」の製品を作り、それをベトナム人がベトナムに運ぶ……。
フーンさんが働く化粧品工場は、深夜手当がついて時給950円だ。休憩の1時間分は引かれるため、1晩7時間の仕事で6650円。1カ月働いても10万円を少し上回る程度しか手にできない。
留学生のアルバイトは、法律で「週28時間」以内までと定められている。しかし月10万円少々では、生活はできても翌年の学費が貯まらない。彼女は携帯電話の部品工場でのアルバイトも掛け持ちし、さらに4万円程度を得ている。
「法律に違反していることはわかっています。でも……」
フーンさんもベトナムに120万円の借金があるが、返済の目処は立っていない。15年春、彼女は専門学校へと進む。日本語学校に勧められ、試験もなしに入学が許された。学生不足に悩む専門学校が、「偽装留学生」の受け入れで生き残りを図っているのだ。
専門学校へ進んだ後も、彼女は今のペースで仕事をする。日本語学校時代と合わせて計5年間、借金と学費の支払いに追われるだけの生活が続いていく。
そんな生活から逃れようとする留学生がいても当然だろう。ある者は学費の支払いを免れるため日本語学校から失踪し、地下に潜って不法就労者となる。そしてある者は、犯罪の道へと落ちていく。
日本在住8年、同胞の犯罪事情に詳しい大学院生のタン君(29)によれば、ベトナム人窃盗団による大掛かりな事件も起きているという。
「閉店後のスーパーにトラックで乗りつけ、倉庫にある商品を丸ごと盗んでいくようなことまである。そんな犯罪は留学生だけではできません」
一体、誰が窃盗団を形成しているのか。タン君の見方はこうだ。
「日本には(1970年代後半から)難民としてやってきたベトナム人のコミュニティがあります。そのなかに悪い人(首謀者)がいて、(職場や学校から失踪した)元実習生や元留学生が加わっているんです」
窃盗団は新たに来日した留学生に声をかけ、「実動部隊」として利用する。借金を抱え、3K仕事に明け暮れている留学生には誘惑に負けてしまう者も少なくない。
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