レスラーはヘルパーに――有刺鉄線電流爆破デスマッチとホームヘルパー2級の狭間に「大仁田厚」
大仁田厚(57)といえば、「有刺鉄線電流爆破デスマッチ」でおなじみのプロレスラー。41歳で高校に入学したり、参議院議員になったり、破天荒な人生を歩んでいるように思えるが……。
***
「俺が“ヘルパーの資格を持っている”と言うと、みんな驚きますね。レスラーでヘルパーの資格を持っているのは俺ぐらいだろうな」
と語るのは大仁田ご当人。きっかけは、実母の再婚相手の介護だった。
「2013年に亡くなったんですけど、7年くらい認知症を患い、最後の7カ月問は病院でずっと看病していたんです。そこで、義父の看病にもっと積極的に携わりたいと思って、資格を取ることを決断しました」
12年、週3回3カ月間学校に通った大仁田は、ホームヘルパー2級(現在は「介護職員初任者研修」に統合)の資格を取得した。
「座学も実習もやりました。シーツの畳み方では怒られてばっかりだったですね。でも、おかげで義父の体を拭いてあげたり、シャンプーしたりできるようになりました」
また同年、レストランを経営していた母と共に「目黒リハビリホーム」という機能訓練に特化したデイサービス施設を開業させた。
「最初は営業に行っても周りの反応は冷たかった。有名人ということで色眼鏡で見られる部分もあったと思う。でも、徐々に熱意が伝わったのか、今では100人くらいの人が利用してくれるようになりました。最近はプロレスの仕事が忙しくてあまり行けてないけど、お年寄りにマッサージをしたり、ストレッチやリハビリのやり方を教えたりしています。俺のことを知っている人は半数くらい。“ファイヤー!”って言って喜んでくれる人もいますよ」
御年80の母親と共に充実した介護ライフを送っている大仁田だが、制度についての不満も漏らす。
■レスラーはヘルパーに
「例えば、訪問先で食事を作った時、お年寄りに“一緒に食べよう”と誘われても、規則で付き合えないんだよね(保険適用外サービスになる)。でもさ、一人暮らしのお年寄りには寂しい思いをしている人も多いんだよ。もう少し融通を利かせてもいいんじゃないか」
どうやら7年前まで国会議員だった血が疼(うず)いているご様子である。“ファイヤー介護論”は次第にヒートアップしていく。
「知り合いの48歳の女性は、両親が認知症になって、仕事と介護で忙しくて婚期を逃してしまった。親の介護はできる限りはすべきだと思うけど、頑張りすぎて自分が不幸になったりすることもある。行政はもっと“ケアする人たち”のケアにも重点を置いた方がいいと思います」
しかし、レスラーが虎の皮とすれば、ヘルパーは羊の皮そのもの。違和感ありありなのだが……。
「実は、ヘルパーの資格を取ったのには、レスラーがプロレスを辞めた後に介護の道で食っていけるという礎を築きたい気持ちもあったんだ。だから、俺に続いてヘルパーになるレスラーが増えてほしいな。だって、レスラーは力が強いから重労働に耐えられるし、体はごついけど、意外と心優しい奴が多いんだから」
優等生になっちゃった大仁田サン、もう“邪道”の看板は外したら如何。