「戦後70年を迎え、安倍政権として新たな談話を表明したい」 安倍晋三×櫻井よしこ対談(2)

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 第3次安倍内閣が発足し、17閣僚が再任された。唯一、防衛相兼安全保障法制担当相として新しく閣僚の任に就いたのは中谷元・元防衛庁長官。発足後の会見では中谷氏の起用に関し、自衛隊の現場にも精通し、集団的自衛権に関する与党協議で重要な役割を果たした、と説明された。安倍晋三総理はこの先、安保法制の整備、そして改憲への道筋をどのように考えているのだろうか。櫻井よしこ氏が、日本経済の先行きに続き、総理に問うた。

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櫻井よしこ 先ほどから、総理はアベノミクスの成果がすでに出始めていると話されてきました。これを成功させ、経済再生と財政健全化に道筋をつける努力をしたうえで、やはり総理に期待されているのは、憲法改正や、集団的自衛権の問題だと思います。今回の衆院選で自民党は大勝しましたが、その一方で、保守の側から安倍総理を叱咤激励する役割を果たせるはずだった「次世代の党」が壊滅状態(改選前の19議席から2議席に減少)となり、渡辺喜美さんの「みんなの党」も空中分解してしまった。反面、民主党が少し議席を増やし、共産党が3倍弱に躍進しました。与党の公明党も議席を増やしましたが、集団的自衛権などに関しては、ブレーキ役を果たすと仰っています。そういう意味では、国会では反対勢力、リベラル勢力が力を増した形です。今後、国会での法案審議の進め方などにかなり高度な戦略・戦術が必要になってくるのでしょうか。

安倍晋三 今まで通り、丁寧に議論していき、国民の皆様への説明もしっかり行っていきたいと思っています。この集団的自衛権に関しましては、国民の生命・財産や幸せな生活を守るために、7月、自民党・公明党で行使の一部容認を閣議決定致しました。それも争点となることを前提とした今回の総選挙です。各テレビの討論会においては、これも必ずテーマになりました。その結果、集団的自衛権行使の一部容認を閣議決定した与党が3分の2の議席を獲得したわけです。我々はその信任の上に立って、安保法制の整備を進めていきたいと考えています。

櫻井 集団的自衛権に関する閣議決定は、安全保障に対する戦後の無責任体制と訣別する歴史的な偉業だったと、私は評価しています。しかし、別の面からすると、自衛隊が実行可能なことをリストアップする「ポジティブリスト」の項目を増やし、「ポジティブリスト」の上にまた「ポジティブリスト」を作るという状況に陥っていくように思えます。これでは国防のための運用がより複雑になりかねません。この方式ではなく、「やってはいけないこと」をリスト化する「ネガティブリスト」方式へ変え、有事に即応できるようにすることが肝要です。「ポジティブリストの自衛隊」から「ネガティブリストの自衛隊」へと質的変換をはかることが理想ですが、総理はどう思われますか。

安倍 有事というものは、そもそも全てを予測し得ません。日本を侵略しようと考える勢力は、私たちの考える防衛政策の裏をかこうとします。ですから、「自衛隊はこういう事態では、こういうことしかできません」と、中身を明示する完全ポジティブリストでは、それこそ相手側の思うつぼなんです。国際的な常識に鑑みれば、「国際法上、やってはいけないことはやりません」ということにすべきでしょう。それは、櫻井さんが仰った「ネガティブリスト」ということになりますが、ただ日本の安全保障上の政策には、当然、憲法の制約がかかります。そうした憲法との関係を十分に踏まえながら、国民の命を守り、その幸せな生活を切れ目なく守っていくことに資する法制にしていきたいと思っています。

■「もほやデフレではない」

櫻井 まさにその憲法の問題ですが、総理はかねてより、「自分の歴史的使命は憲法改正だ」と述べてこられました。その実現に向け、第1次安倍政権で国民投票法を定め、第2次安倍政権では、同法の投票年齢を18歳以上に引き下げる改正を行いました。12月14日の選挙後の記者会見でも「憲法改正は、我が党にとって悲願だ」と語られた。第3次安倍政権が発足し、そこからさらに一歩進んでいただきたいと願いますが、この憲法改正への思いをお聞かせください。

安倍 憲法改正には、まずどの条文をどう変えていくかという問題がありますが、現状では、衆議院・参議院いずれにおいても議会で3分の2の勢力を構築しなければ、発議すらできません。そのうえにおいて、国民投票で過半数の支持を得なければいけない。日本の場合、この両方が必要なので、要件が厳しいのです。

櫻井 総理は、憲法改正の発議に、衆参の3分の2以上の賛成を要するという96条の条文の変更を唱えられていた時期もありましたね。

安倍 憲法を国民の手に取り戻すためにも、本来なら、国民投票の方がより大切で、重視されるべきなんです。それにもかかわらず、両院で3分の2の勢力を確保できないと提案さえできない。ハードルが高すぎて、国民投票まで辿り着けないということ自体が、おかしいと思うんです。

櫻井 私たち民間で今、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」という会を設立し、2016年の参院選の頃に試案を提示しようと言っているんですが、総理は憲法改正の実現を、いつ頃、どうしたいというお考えはありますか。

安倍 時期に関しては、まだいつまでにと明示できる状態にはありません。ただ、両院の3分の2の多数を得られたとしても、国民投票によって否決されたら、一巻の終わりになるんです。だからこそ、そうならないように、まずは国民的な議論を深めていく必要があります。

櫻井 憲法改正の歴史的必要性については、我が国を取り巻く現下の国際情勢を見れば、明らかです。ぜひとも改正に向け前進し、戦後体制が抱える課題に切り込んでいただきたいと思います。また2015年は、大東亜戦争終結から70年という節目の年です。歴史問題に関する中国の反日攻勢が激しさを増すのは必定で、私はとても憂慮しています。総理は、中国の反日プロパガンダなどに対し、どう情報発信を行っていかれますか。

安倍 この70年で日本が平和国家として歩を進め、アジアの発展、そして平和、民主化に大きな貢献を果たしてきたことは評価されているものと思います。

櫻井 その点は、2014年7月の総理のオーストラリア訪問の際、アボット豪首相も共同記者会見で、「日本を公平に見てほしい。70年前の行動ではなく、今日の行動で判断されるべきだ」と強調してくれました。

安倍 その通りです。70年を機に、今後、日本がどういう道を歩んでいくのか、しっかり世界に向けて発信していきたいと思います。日本と志を同じくする国々とともに、アジア・太平洋地域をより平和で安定した地域にしていかなければならない。戦後50年を迎えた際は村山談話、60年では小泉談話が発表されました。戦後70年を迎えるに当たり、安倍政権として、先の大戦に対する反省とともに、この間の70年の日本の歩みや、今後、我が国がアジア地域や世界のためにどういう貢献を果たしていくのか、その思いをしっかりと表明し、新たな談話の中に書き込んでいきたいと考えています。

櫻井 日本が“まともな国”になるためには、毎年、総理が靖国神社に参拝され、英霊への尊崇の念を示すことも重要だと思います。中韓からの不当な批判に晒されようが、総理には毎年、靖国参拝をしてほしいと思わずにはいられません。

安倍 これに関しては、今まで述べている思いにいささかの変化もありません。国のために戦って、尊い命を捧げた方々に対し、そのご冥福を祈り、手を合わせる。極めて当然のことであり、世界各国のリーダーに共通する姿勢だと思います。私自身もそういう気持ちを常に持ち続けていきたいと考えています。

櫻井 経済再生や国防の強化、憲法改正などは、総理に託された使命です。安定した長期政権を築いたうえで、日本を立て直してください。

安倍 ありがとうございます。経済再生に関して言えば、アベノミクスで雇用を生み、賃金を増やし、消費を拡大させる状況を維持しています。「もはやデフレではない」という状況を作ることができるところまで来た。それによって、間違いなく2017年4月には消費税を10%に引き上げられる環境を整え、財政再建に取り組むこともお約束します。次は景気判断条項はないのですから。民主党のように「もう成長できない」と言ってしまったら、終わりです。逃げてはいけない。日本はもっと成長できる。それに向かって経済政策を進めていくのが、私の責任なのです。

「日本ルネッサンス【拡大版】安倍晋三×櫻井よしこ対談 円安 財政再建 日本経済の『先行き不安』説に答える!」より

週刊新潮 2015年1月1・8日新年特大号掲載

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