悪役商会「八名信夫」は元プロ野球選手で教育論の講演1年90回!
“まずい! もう一杯!”。青汁のCMでお馴染みの俳優・八名信夫氏(79)は高倉健の『網走番外地』や菅原文太の『仁義なき戦い』に何度も出演した名脇役である。球界から俳優に転じた変り種だが、今や、教育論を語る講師として引っ張りだこ。その数、年間90回!
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「講演を頼まれて、最初の頃は野球や映画のことを話していたが、やっているうちに、もっと自分らしいものをやらんといかんと感じるようになりましてね」
と言うのは八名氏。
「現在は、子供たちをどうやって育てていくべきかというようなことを語っています。僕らが子供の頃は、喧嘩の時は武器や刃物を持ったら負けだという意識があった。でも、今はナイフで平気で相手を傷つける。子供たちに何を教えるのかは大人の責任だと思います。私は悪役商会のリーダーで、ずっと悪役をやってきた。そんな僕が教育論を語るのが面白いと講演の依頼が舞い込んでいるんです」
八名氏、実はもともとは東映フライヤーズ(現・日本ハム)の投手だった。明治大学野球部を2年生で中退し、東映に入団した。
「2年生の秋、六大学の新人戦の最終日、優勝のかかった大一番で僕が投げて優勝が決まった。この時は打撃も4打数4安打でした」
明大野球部には幾つかの合宿所があり、レギュラーは第一合宿所にいた。
「僕も第一合宿所に入りましたが、周りはみんな上級生。上下関係がとんでもない所で、風呂がぬるいだの、下駄が揃ってないだのと、四六時中ボコボコに殴られていました。こんなところにいたら殺されると思い、中退してプロに行くことにしたのです」
■“高倉健に撃たれろ”
キャンプは静岡県伊東市で始まった。
「ベンチにストーブがあり、上にやかんが置いてある。僕が気を利かせて、“監督、お茶いれますわ”と茶碗に注いだ。そしたら監督は“おっととっ”と慌てるんですよ。見ればやかんの中は燗酒。“ああ凄いところにきちゃったな”と思ったね」
リリーフ専門だった。
「当時はバッティングマシーンなんかない。練習でも僕らが投げる。試合前に投げて、本番でも“投げろ”ですよ。体調管理なんてなかった」
当時の東映選手の破天荒ぶりは今も語り種だ。
「翌日の試合のことは考えずに朝まで飲んでいるなんてザラ。球場入りする前は、よく銀座の『未亡人倶楽部』というキャバレーで飲んでいました。で、試合になっても酒臭い。今の選手は僕らに比べればみんな優等生だよ」
八名氏の選手生命はあっけなく終った。
「3年目の夏、対近鉄の試合で投球時に右足のスパイクの歯がピッチャープレートに突き刺さり、抜けないまま投球動作に入って倒れた。気がついたら病院のベッドの上。腰の骨折でした」
引退後、俳優に転じた。
「東映の大川博オーナーから“長嶋や王に打たれるよりも、高倉健に撃たれろ”と言われましてね」
その後は見事悪役に徹しきったのはご承知の通り。
「高倉健さん、菅原文太さんと、親しくしてもらった人が亡くなり、寂しくなりました。残りわずかな人生を精一杯生きていこうと思っています」