戦争も革命も愛で動いた/『国と世紀を変えた愛 張学良と宋美齢、六六年目の告白』
一九九〇年十二月、NHKは衝撃的な番組を放映した。半世紀にわたり消息を絶っていた張学良が姿を現しインタビューに応じたのである。関東軍の謀略により爆殺された張作霖の長男、蒋介石を捕らえ「内戦停止一致抗日」を迫った「西安事変」(一九三六年)の首謀者……。中国建国の遠因を作った歴史の証人の証言は、世界中の注目を集めた。著者はこの放映の二年後、張学良との私的インタビューに成功する。彼は意外な言葉を口にする。「私と女性の話をしましょう」。
本書は、このインタビューをもとに張学良の生涯を彩った六人の女性たち――最初の夫人・于鳳至、後に物理学者となる第二夫人・谷瑞玉、天真爛漫なムッソリーニ令嬢のチアノ伯エッダ伊公使夫人、秘書として幽閉生活を支えた第三夫人・趙一荻、蒋介石夫人・宋美齢、「最高の女友達」蒋士雲――と彼との関わりを、彼女たちに寄りそいながら女性らしい感性でひだ細かく描き出す。一番多くの頁が割かれているのは、夫の絶え間ない女性関係に悩みながら四人の子供を育てた三歳年上の第一夫人。彼女は夫から迫られた離婚に「納得はしないが、学良への愛の証しに」署名する。本書には、「軍人にだけはなりたくなかった」「軍人は人間のやることではない!!」「天皇(昭和天皇)が戦争を終結させたことは尊敬します」といった、従来、日本で流布されてきた張学良のイメージを書き換える言葉も収録されている。それにしても蒋介石父子は、なぜ半世紀もの長きにわたる「厳加管束(厳重監禁)」を科すほどこの男を怖れ憎んだのか。昭和六年生まれで中国東北部で少女時代を過ごした著者にとって、張学良の個人史を辿ることは、自らが経た歴史を見直すことでもあった。インタビューから二十二年の歳月をかけて本書を書き上げた労苦と執念には頭が下がる。欲を言えば、繰り返し登場する事変や洋行、幽閉生活などを一目で確認できる年譜を添えて欲しかった。