インターネットに足りないもの/『20世紀エディトリアル・オデッセイ:時代を創った雑誌たち』
雑誌は時代の中で生まれ、時代の流れの中で消え去って行く。その儚さを運命づけられた雑誌を、忘却の中から救い出そうという営為は狂的ともいえる情熱を必要とするようだ。本書は、従来の類書には「コンセプトやグラフィックの側面を含めた『新しい編集』について語られたものが少ない」「1960年代半ばから始まるアメリカのカウンターカルチャーの影響下に生まれた雑誌についての言及に乏しい」と考える二人の編者が執筆し、語り合い、関係者にインタビューを重ねて作り上げた労作だ。冒頭に採り上げられるのはその「未来的な紙面構成」で後のネット社会の到来を導いた、1960年代後半のアメリカのカウンターカルチャーを代表するカタログ『ホール・アース・カタログ』。次いで、パンクやニューウェイヴといった音楽に連動して生まれた雑誌が紹介される。中でも「自動販売機だけで売ってたエロ本」の『Jam』など、評者は本書によって初めてその存在を教えられた。「実験雑誌としての『アンアン』」では、天才的アートディレクター、堀内誠一の素顔が、当時の制作スタッフたちの証言で浮かび上がる。もちろん『ロッキング・オン』『遊』『宝島』といった著名な雑誌も扱われているが、なんといっても光彩を放っているのは「コミックマーケット創成期と同人誌」の項。採録された手作り感あふれる同人誌の数々が、当時の熱気を伝えてくれる。最後に置かれた「米沢嘉博の書物迷宮」は、編者たちが私淑する大衆文化評論家への尊敬の念が込められている。情報満載の本書だが、最大の魅力は、1200点に及ぶ雑誌・書籍の資料画像の豊富さ。本書の「雑誌曼荼羅 1901→2000」を見ていると、いかに多様な雑誌が時代を横切っていったかを知ることができる。自分たちが書き残さなければ、誰がこれらの雑誌の価値を後世に伝えることができるのか、そんな矜持を感じさせる情熱の書でもある。