生態系を破壊する小さな侵入者/『ねずみに支配された島』
東京・井の頭公園で池の水を抜く「かいぼり」が行われ、ブラックバスやブルーギルなどの外来種が駆除された。そのニュースは花見や入学式と同列の「ほのぼの」的な報道だったが、本当の外来種問題は、そんな生ぬるいものではない。
本書が取り上げるのは、深刻な外来生物問題の最前線。離島で独特の進化を遂げた鳥たちを侵入者から救う試みだ。本書では、ニュージーランドで独特の進化を遂げた飛ばない鳥・カカポやアリューシャン列島のウミスズメなどが、たった一匹の「侵入者」によって絶滅の危機を迎えている歴史と現状が丁寧に描かれる。著者は前著『捕食者なき世界』で、増えすぎた鹿が植物を食べつくしてしまったため生態系が破壊された国立公園を、頂点捕食者であるオオカミを導入しただけで修復するという衝撃の事例を紹介した。だが本書の事例では海鳥をも襲いかねない頂点捕食者は使えない。海鳥たちを救うために立ち上がった「外来種バスターズ」たちの結論は、爆発的に増え続ける外来の「侵入者」であるネズミを一匹残らず殺戮しなければならないというもので、その活動は手に汗握るノンフィクションとなっている。
読み進めるうちに、「生物多様性」の大切さを考えずにはいられなくなる。自然界の掟は弱肉強食という名の淘汰である。果たして人間がこの自然の掟を破っていいのか。しかしこのままでは海鳥は絶滅し、植物は海鳥の糞がもたらすリンを得られなくなり育たない。植物が絶滅すれば……と、めぐりめぐって人間も絶滅しかねない。絶滅の危機にある固有種を守ることは我々自身につながってくるのだ。
それまで何万年もかけて保たれてきた自然界のバランスを壊し、生物多様性を脅かす最大の敵は、もしかしたら地球温暖化などではなく、交通網の発達によって外部から侵入してくるたった一匹のネズミかもしれない。そしてそれら外来種を持ち込んだのは、まぎれもなく人間の仕業である。
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