アメリカ人による居酒屋学/『日本の居酒屋文化 赤提灯の魅力を探る』
最近、都市社会学で「第三の場(空間)」という概念が注目されている。それはロンドンのパブ、パリのカフェ、マドリッドのバルといった、「〈日常〉と〈非日常〉との間を占める、独特な時空間」を指すものだが、著者はこの概念を援用しつつ日本の赤提灯の「独自の醍醐味」を解き明かす。
著者は日本滞在が延べ20年という1956年生まれのアメリカ人。日本の戦後文化論や都市文化論を大学で教える傍ら、ジャズ・ピアニストとしてCDも出すという異能の人でもある。
「お通し」(!)と銘打たれた序論で著者は本書の狙いを「居酒屋ガイドの側面を備えつつも、主目的はあくまでも居酒屋という〈場〉の社会的な意義や貢献を考えながら、赤提灯や大衆酒場に代表されるローカルで庶民的な呑み屋の魅力をより多面的に考察することにある」と書く。
著者の居酒屋探訪は驚くほど広範囲に及び、北は北海道から南は沖縄まで、主に裏通りや路地の片隅にひっそりと佇む小さな居酒屋が120軒も採り上げられている。「居酒屋は味と価格だけではない、五感をもって満喫する場所である」と信じる著者は〈人〉こそが居酒屋のもっとも重大な要素だと指摘する。また、居酒屋で注目すべき点は「物の流通および消費ではなく、人との出会いおよび交流、さらに〈人〉・〈店〉・〈街〉の重層的な関係」にあるという。左党にとってうれしいのは、最終章の穴場探しのガイドラインをまとめた実用編。店の外観と入口、看板と提灯、のれんの様態、品書きの形、店内から漏れてくる音などを「パーツ別」に意識して捉えることの重要性が強調されている。本書を読めば、赤提灯がいかに奥深い「生きている文化」なのかということが共感をもって再認識できる。それとともに、紹介されている居酒屋を一度は訪れてみたいという思いが湧いてくる。同じ著者による『呑めば、都』(筑摩書房刊)との併読がお奨め。
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