アジア戦略の「次の一手」を示す/『ネクスト・アジア』
中国の成長を牽引してきた「不動産」と「影の銀行」に陰りが見え始め、企業は「チャイナ・プラスワン」探しにシフトしている。しかし、BRICsの一角として注目されたインドは伸び悩んでおり、日本企業がかつて集中的に投資したタイも政治的混乱の中にある。日本企業は成長するアジアのどこに向かえばいいのか、手をこまねいている。
四年前、著者は『アジア力』を著し、中国への一極集中を避け、ASEANや南アジアに注目すべきだと説いた。その指摘通り同地域は発展しているが、著者は「アジアの成長の担い手は常に変化している」と、本書で注意を促している。
ASEAN諸国、インド、南アジア、インド以西、中国と、成長するアジア各地域の強みと弱みを独自の視点で網羅的に分析し、わかりやすく解説しているので、アジア経済の今を勉強するにはもってこいの入門書にもなる。そうして導き出された「ネクスト・アジア」は、南アジアから中東、東アフリカまでを含む「インド洋経済圏」だという。太平洋の四四%という小さいサイズのインド洋で結ばれているこの地域は、ヒト、カネ、モノの移動が容易な点が最大の強み。中でもスリランカの驚異的な成長とバングラデシュの巨大な潜在力は、日本企業が戦略的に取り込むべきだと分析している。
あまりにも広い地域に目配りしているため、もっと知りたい情報のディテールにまで言及しきれていないのが残念だが、アジアを戦略的に俯瞰する視点を得るには最適だし、アジア成長の秘密はこれ一冊で把握できることは請け合える。
長いデフレにあえぐ日本人として感じたのは、「二度目の春」を迎えたASEANの国と地域を挙げた成長戦略に、将来を見据えた明確なビジョンがある点だ。箱モノ行政とその場限りの公共投資を繰り返してきた日本は、彼らの計画性を見習うべきだと痛感した。もはや「ルック・イースト」ではない。学ぶべきは日本である。